「34年ぶり」の大幅賃上げが、ゆくゆくは中小企業を苦しめるカラクリ:労働市場の今とミライ(1/3 ページ)
2025年の賃上げの最終結果が出た。1991年の5.66%以来、34年ぶりの賃上げ率となる一方で、注目すべきは、日本の労働者の7割が働く中小企業の結果だ。
2025年の賃上げの最終結果が出た。労働組合の中央組織である連合は7月3日、春闘の最終回答集計結果を公表。5162組合の加重平均(規模計)の賃上げ額は1万6356円となり、賃上げ率は5.25%となった。2024年を0.15ポイント上回るとともに、1991年の5.66%以来、34年ぶりの賃上げ率となった。
長らく停滞していた賃上げは2023年の3.58%、2024年の5.10%に引き続き3年連続で大幅引き上げとなった。5.25%のアップ率は、すでに議論が始まっている10月からの最低賃金の基準になると思われ、その影響は大きい。
5.25%には定期昇給分も含まれており、基本給を底上げするベースアップ分は1万1727円、率は3.70%と、2024年を0.14ポイント上回った。2年連続で定昇込み5%台の賃上げが実現したことについて、連合は「定昇除く賃上げ分は過年度物価上昇率を上回った。新たなステージの定着に向け前進したと受け止める」と評価している(連合第95回中央委員会の会長あいさつより引用)。
ちなみに、経団連が5月22日に公表した大手企業(原則従業員500人以上)の回答状況によると、平均賃上げ額は1万9342円。賃上げ率は5.38%で前年比0.37ポイント減となっているが、連合とほぼ同じ水準だ。
労働者の7割が働く中小企業の実情
今回注目したいのは、日本の労働者の7割が働く中小企業の結果だ。連合の300人未満の中小組合3677組合の賃上げ額は1万2361円となり、賃上げ率は2024年を0.20ポイント上回る4.65%となった。内訳は100〜299人の組合の賃上げ率が4.76%(賃上げ額1万2909円)、99人以下が同4.36%(同1万922円)で、1000人以上が同5.39%(同1万7451円)であるのに対し、99人以下とは額にして6529円、率にして1.03ポイントの格差がある。2023年の1000人以上と99人未満の格差は0.75ポイント、2024年は1.26ポイントで、依然として差は縮まっていない。
当初、連合は5%以上の賃上げを目指すとともに、規模間格差を解消するために中小組合は6%以上を目標に掲げ、実際の中小の要求集計も全体を上回る6.57%だった。しかし結果として格差解消は進まず、差は開いたままだ。連合も「引き上げ率・額とも全体平均を下回り、格差拡大に歯止めをかけるには至らなかった」(連合第95回中央委員会の会長あいさつより引用)と総括している。
また、中小組合のベア分は3.49%、従業員99人以下は3.27%だった。過年度物価上昇率を辛うじて上回っているが、現在も食料品を中心に3%強の物価高騰が続いており、賃上げ分が相殺され、実質賃金がプラスに転じるのか微妙な状況にある。
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