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「34年ぶり」の大幅賃上げが、ゆくゆくは中小企業を苦しめるカラクリ労働市場の今とミライ(3/3 ページ)

2025年の賃上げの最終結果が出た。1991年の5.66%以来、34年ぶりの賃上げ率となる一方で、注目すべきは、日本の労働者の7割が働く中小企業の結果だ。

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強制的賃上げである最低賃金、中小企業はどうなる?

 中小企業の賃金引上げにおいては価格転嫁が大きな鍵を握っている。日本商工会議所が4月30日に公表した「コスト増加分の価格転嫁の動向」によると、10割の価格転嫁を実施できた企業が4.7%、7〜9割程度が23.7%、4〜6割程度が24.3%で、4割以上の価格転嫁を実施できた企業は52.7%となった。業種別にみると、建設業や卸売業は4割以上の価格転嫁を実施できた企業は約65%と高水準だが、サービス業は3割強と低い。また、従業員規模別では10人未満が最も低く、44.3%にとどまっている。

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価格転嫁の動向 コスト全体(「コスト増加分の価格転嫁の動向」より引用、以下同)

 中小企業からは「価格協議には応じてもらえるものの、単価引き上げにかかる詳細な資料の提出を求められ、実質的な価格交渉を行うことは難しい」(民生用電気機器製造業)、「原材料価格の上昇に加え、ガソリン代の高騰など、コスト増要因しかない。一方、消費者の所得は増えていないため、売上減少を危惧し、価格転嫁はできない」(衣服・日用品卸売業)といった声が挙がっている。

 コスト増加分のうち、賃上げに当たる「労務費増加分」については、4割以上の価格転嫁を実施できた企業は36.4%だった。政府の「労務費転嫁指針」の周知は行われているものの、2024年10月調査に比べてマイナス0.4ポイントと、ほとんど変わっていないのが実情だ。労務費の価格転嫁ができていない0割の企業は23.8%もあった。

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価格転嫁の動向 労務費

 業種別にみると、建設業は4割以上の価格転嫁を実施できた企業が6割に迫るなど他業界に比べて高水準だが、小売業やサービス業は20%台で全体を下回っている。従業員規模別では10人未満が29.6%と最も低く、小規模・零細企業の労務費の価格転嫁が進んでいないのが実態だ。

 前出の「中小企業の賃金改定に関する調査」に寄せられた自由回答では、「中小企業の多くは厳しい経営状況の中、精一杯の賃上げを実施している。賃上げの原資確保のためには労務費を含めた価格転嫁交渉が必須。顧客に対しての値上げ交渉がもっとスムーズにいくような政府のサポートをお願いしたい」(東北・運輸業)という声があった。

 冒頭に述べたように、10月から実施の最低賃金引上げに向けた厚労省の中央最低賃金審議会の議論が始まっている。政府は「2020年代に全国平均1500円」の目標を掲げており、実現するには毎年7.3%アップの大幅な賃上げが必要となる。強制的賃上げである最低賃金の引き上げに中小企業が対応できるのか。政府の支援がなければ経営的に苦境に陥る中小企業も出てくるだろう。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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