「トップの不正」にどう対応したのか 国産ドローン企業が実行した“情報戦”:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
国産ドローンメーカーとして注目される企業、ACSLで不祥事が発生。同社が活用したのが、企業インテリジェンスだ。徹底的な調査と迅速な対応により、ダメージを最小限に抑えた。情報を分析して活用する「インテリジェンス」がビジネスに不可欠になりつつある。
「インテリジェンス」がビジネスで不可欠に
筆者は最近、日本が直面している経済安全保障の問題や国際競争力について取材を続けているが、重要な鍵を握るのは企業インテリジェンスだと感じている。
筆者の専門であるサイバーセキュリティ分野でも、それは同じだ。サイバーセキュリティ業界では、企業インテリジェンスならぬ、「脅威インテリジェンス」が欠かせなくなっている。脅威インテリジェンスは、サイバー攻撃を受けるリスクを情報収集によって事前に察知する対策である。ここ最近、企業の経営者や幹部と話をしていても、「インテリジェンス」の重要性に気が付いている人が非常に増えたと感じる。
スパイ機関などが絡むインテリジェンス分野は“国家”のために動くが、企業インテリジェンスではビジネスに生かせる情報を収集・分析する。世界との距離がこれまでになく縮まっている現代は、情報を集めて分析し、適切に企業戦略に使うことが不可欠だ。
今回のACSLのケースは、世界的に競争が激しく、米国や中国などでせめぎ合いが続いているハイテク業界での不祥事だったため、新聞などでも大きく取り上げられることになった。
ハイテク分野の国産化は安全保障の観点から各国が進めたいところであり、日本政府も防衛やインフラなどの領域でACSLに期待を寄せている。今回は早い段階で調査し、その結果を公開した同社の透明性によって、ダメージを最小限に抑えることができたといえる。それは今後、不祥事から迅速に復活する レジリエンス(復元力)を見せることにもつながる。
ACSLの国産ドローンのさらなる活躍に期待したい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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