「DXすれば万事解決」は幻想 米ドラッグストア大手の破綻にみる、デジタル投資の落とし穴:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)
米ドラッグストア大手のRITE AID(ライト・エイド)が、わずか7カ月で2度の破綻に追い込まれ、閉店することになった。背景には、DXや業態転換だけでは解決できない、根深い問題がある。現地視察で見えてきた、今回の破綻劇の“本質”を紹介する。
なぜ投資が成功しなかったのか?
これだけの投資をしたにもかかわらず、RITE AIDが成功しなかった理由は複合的です。
CVSが2007年からPBM統合を開始していたのに対し、RITE AIDの変革に向けたデジタル投資が本格化したのは2020年頃からで、約13年の遅れがありました。
この間にAmazon Pharmacyなどの新規参入者も市場に登場し、競争環境が激変していました。どの施策も他社の後追いに過ぎず、着手の遅れがありました。
投資が継続できなかった不運もあります。
PBM償還問題とオピオイド訴訟(※)による財務圧迫により、デジタル投資に十分な資源を継続投入できませんでした。2023年の第1回破産から2024年の再建、そして2025年の第2回破産という混乱の中で、長期的なDX戦略の推進は困難でした。
(※)オピオイド訴訟:医療用麻薬「オピオイド」入りの鎮痛剤の中毒問題を巡り、被害者らが製薬会社を相手に起こした集団訴訟。
リテールメディア事業についても、RITE AIDの約1240店舗という規模では十分な競争力を持てませんでした。顧客基盤の規模限界により、この新収益源も同社の破産を防ぐことはできませんでした。リテールメディアで広告収益を上げるためには、そもそものメディア価値が高いことが最低条件です。「他社がやっているから、ウチも……」で成功するようなウマい話ではありません。
オピオイド危機について、CVSやWalgreenも同様の訴訟を受けましたが、RITE AIDへの影響はより深刻でした。CVSは50億ドル(10年間)、Walgreenは57億ドル(15年間)の和解金支払いに合意しましたが、両社は事業規模が大きく、1000店舗規模の店舗閉鎖などのコスト削減により、この負担をなんとか吸収できました。
しかしRITE AIDは2023年時点で年商240億ドル(約3.5兆円)の規模で、数十億ドル規模の和解金負担は致命的でした。これにPBM償還問題とデジタル投資負担が加わって、三重苦となりました。
物販の競争力低下
インフレ圧力により、生活者は家の近くのドラッグストアよりも同一商品をより安く販売するWalmartやTarget、ALDIでまとめ買いするようになりました。さらに貧困層は、多少店舗や商品の品質が劣ってもDollar Generalのような低価格店を利用するようになりました。
結果として、CVS、Walgreenも含めた米国のドラッグストアの収益の25%を占める物販事業が、こうした競争に負けました。AmazonのようなECサイトや化粧品小売業のSephoraやUlta Beautyの急成長により、従来のドラッグストアの化粧品販売も大きな打撃を受けています。
(参考記事:AI活用でEC売り上げ伸長 コスメ世界大手「セフォラ」が進める、攻めのデジタル戦略とは?)
(参考記事:独自の出店戦略で差別化 米コスメ大手「アルタ・ビューティ」急成長の源とは?)
DXは必要条件だが、十分条件ではない
RITE AIDの倒産が示すのは、デジタル変革は必要条件だが十分条件ではないということです。同社は大きなDX投資を行い、Adobe Experience Cloudとの提携、モバイルアプリ刷新、RxEvolution戦略、さらにはリテールメディア事業まで幅広く取り組みましたが、基盤事業の構造的問題(PBM依存、規模の劣位、法的リスク、物販の競争力不足)を解決できませんでした。
日本のドラッグストア業界においても、DXへの投資は不可欠ですが、それと並行して事業モデルの根本的見直し、規模の経済性の確保が求められています。RITE AIDの事例は、「デジタル化すれば万事解決」という単純な発想の危険性を教えてくれる貴重な教訓といえるでしょう。
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