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DXの本質は技術導入にあらず インドネシア小売大手に学ぶ、顧客データの徹底活用がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)

インドネシアの大手小売業アルファマートは、25年間で1万2000店舗から2万2000店舗へと拡大し、国内認知度98%を誇る。同社の戦略とビジネスモデルから、日本企業が学ぶべきこととは。

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連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 筆者は6月3〜5日にシンガポールで行われた「NRF APAC」に参加してきました。

 全米小売業協会(NRF)が主催するこのイベントは、アジア太平洋地域の小売業界を牽引するリーダーたちが集い、最新のトレンドやテクノロジー、そして新たなビジネスチャンスを探る場となっています。

 今回、特に印象的だったのが、インドネシアの大手小売業アルファマート(Alfamart)のマーケティングディレクターの基調講演です。

 25年間で1万2000店舗から2万2000店舗へと拡大し、国内認知度98%を誇る同社の成長ストーリーは、単なる技術導入にとどまらないDXの本質を体現した結果といえます。

 これからアジア市場への進出を狙う日本の小売企業にとって、同社の戦略とビジネスモデルは貴重なヒントとなるはずです。講演の内容から、同社の成功要因を解説します。


インドネシアの小売大手アルファマートが飛躍的な成長を遂げたワケとは。写真は同社マーケティングディレクター、ライアン・アルフォンス・カロ氏の講演の様子(筆者撮影)

コンビニとスーパーの間を狙う戦略

 アルファマートが成功した理由の一つは、自社を「コンビニエンスストア」ではなく「ミニマーケット」として位置付けたことにあります。店舗面積は、日本のコンビニより大きく、スーパーマーケットより小さいサイズです。

 この店舗サイズにより、アルファマートは手頃な価格の8000SKUを展開可能となり、日本のコンビニの約3000SKUを上回る品揃(ぞろ)えを実現しています。

 「家庭の冷蔵庫の延長」という価値提案のもと、生鮮食品(冷凍肉、魚介類、野菜)から日用品、医薬品、調理済み食品まで、地域の生活インフラとしての役割を果たしています。

「誰に何を売るか」――徹底的にデータで最適化

 アルファマートの成功の核心は、2019年のデータとロイヤルティプログラムを専門とする同国のGLI(Global Loyalty Indonesia)買収にあります。この戦略的投資により、同社は200〜300人規模のデータサイエンティストと数学者を含む専門チームを内部に構築しました。

 その結果、2200万人以上の会員から得られる膨大な購買データを顧客理解の深化に活用し、会員からの売上貢献率を20%未満から60%へと劇的に向上させました。

 特にベビー、ママ、キッズといった特定カテゴリーでは、会員からの貢献が7〜8割に達しています。アルファマートは「誰に何を売るか」を徹底的にデータで最適化したのです。

ハイパーローカライゼーション戦略

 インドネシアは700以上の言語を持つ世界で最も多様性に富んだ国の一つです。1300以上の民族グループが認定されており、ジャワ島からパプアまで、各地域で全く異なる文化、宗教的慣習、食習慣が存在します。

 この多様性に対し、アルファマートは、講演でも強調した「ハイパーローカライゼーション」戦略を展開しています。

 GLI買収により強化されたデータ分析能力を活用し、地域ごとの祝日、経済状況、食文化を詳細に分析。例えば、イスラム教徒が多数を占める地域では断食月(ラマダン)に特化したプロモーションを、ヒンドゥー教徒の多いバリ島では異なる宗教的配慮をした商品構成を展開しています。

 バハサ・インドネシア語が公用語でありながら、人口の80%以上が母語として地方言語を使用している現実に対し、同社はデジタルプラットフォームでも地域方言への対応を進めています。この精緻な地域適応こそが、96〜98%という驚異的認知度を支える原動力となっています。

オムニチャネル戦略の核になる会員アプリ

 2016年からCRMプラットフォーム構築し、2019年にローンチした会員アプリ「Alfagift」は、単なる会員カードのデジタル化を超えたオムニチャネル体験を提供しています。

 この戦略は、顧客の購買履歴に基づいたパーソナライズされたオファーをし、オンラインとオフライン間の障壁をなくしています。


会員アプリ「Alfagift」は単なる会員カードのデジタル化を超えたオムニチャネル体験を提供する(筆者撮影)

 注目すべきは、既存店舗の6000店舗を「ストアハブ」として活用した配送ネットワークの構築です。これにより周辺地域への無料配送サービスを提供し、低パフォーマンス店舗の有効活用、在庫の最適化、店舗スタッフの有効活用を同時に実現しています。

「収益エンジン」としてのデータ活用

 GLI買収の真価は、データを「収益エンジン」として機能させた点にあります。同社はリテールメディア、メディアバイイング、広告配置などを通じて、コアビジネス以外の収益源を確立しています。

 これは単なるポイントプログラムの運営を超え、顧客データを活用した新たなビジネスモデルの創出を意味します。広告代理店をはじめとした他社任せにせず、顧客体験と収益の最適解を探る取り組みを自分ごととして考えることによって、収益性が高いものとなったわけです。

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