孫正義の「AI革命構想」と経営者へのメッセージ 日本企業に“最後のチャンス”(2/2 ページ)
ソフトバンクグループ株主総会での孫正義氏の発言から、ASI時代を勝ち抜くために企業に求められる判断力と実行力を読み解く。
AIエージェント活用による業務変革の実践モデル
グループ内では「(グループで使用する)2500ほどの異なったシステムを全部統合して1個のスーパーインテリジェンスとする」壮大な構想が進行中だ。12月までに「信じられないぐらい大きな数の、世界で圧倒的最大のAIエージェントを、社内業務で使う」体制を構築するという。「アームやLINEヤフー、ソフトバンク(株式会社)も、グループ会社がまとめて使う」と話し、グループ全体への展開を目指している。
また、こうした自分から能動的に活動するAIエージェントがロボットにも搭載されることにより、物流や製造業などあらゆる産業が根底から変わると指摘し、「これまで出資してきたロボット企業が、今後はOpenAIやStargate Projectと連携しながら、AIロボティクスの分野でも成長していく」というシナジーを生み出す成長戦略を描く。
このプロジェクトの経済的インパクトも注目される。まずソフトバンクグループで徹底的に利用して莫大なAIエージェントを作成し、その後、顧客向けにサービス展開する予定だという。
世界1300兆円市場を見据えた“戦略的布陣”
孫氏が示した10年後の市場規模予測は、AI市場の爆発的成長可能性を具体的数値で示している。「10年後には世界のGDPの少なくとも5パーセントぐらいはASIの会社が提供していると想定します。5パーセントというと、約1300兆円です」
この1300兆円という市場規模は、現在の日本のGDP約4倍に相当する巨大市場である。さらに「僕は4社ぐらいだと思いますが、数社で売り上げ1300兆円を分け合うことになる。これらの会社は収穫逓増型ですから、利益を上げるという意味では十分お釣りが来ると思っています。われわれはその数社のうちの1社になりたい」と話した。
この予測が示すのは、AI市場が既存市場の延長ではなく、全く新しい経済圏を創造する可能性である。経営者にとって重要なのは、この市場創造プロセスにどう参画するかという視点だ。従来の競合分析や市場シェア争いを超えて、新しい価値創造の仕組み自体を構築する発想が求められている。
“超知能”から“超知性”へ AIに人間性を宿す哲学
孫氏のASIに対する哲学は、単なる効率化や自動化を超えた深い洞察を含んでいる。
「本当は超知能だけではダメだと思うのです。超知性にまで進化すべきだと。知能と知性は似た言葉ですが、知能は知的な能力です。知性には、その能力に加えて、慈愛や優しさ、愛情、人間性があります」
この「超知能」から「超知性」への進化という概念は、AI時代の経営者が考慮すべき重要な視点を提供している。技術導入時に効率性や収益性だけでなく、人間らしさや価値観を重視することの重要性を示しているのだ。
実際の体験として「僕は毎日ChatGPTを使っていますが、知り合いが病気になったとか、自分の悩み事を相談すると、本当に模範的な優しい回答を示してくれる」と語る孫氏の言葉は、AI技術が人間の感情面でも価値を提供できることを示している。
この哲学は企業経営においても重要な示唆を与える。AI導入による効率化と人間性の両立、テクノロジーと企業文化の調和、そして長期的な社会価値創造への責任といった観点は、AI時代の経営者が避けて通れない課題だ。
「日本は1周遅れている」 経営者に迫る変革のラストチャンス
孫氏が発した日本企業への警告は深刻だ。「米国が世界で1番、AIを毎日のように使っている人がたくさんいて、技術革新も1番進んでいる。2番は中国です。日本は残念ながらだいぶ遅れている」という現状認識に加え、「AIについて、日本がこのまま一周遅れになってしまうと絶対まずい」という危機感を示す。これは日本の経営者にとって見逃せない警鐘だ。
この状況を打開するために経営者が今すぐ取るべき行動として、まずAI活用の実証実験開始が挙げられる。規模の大小を問わず、自社でAI活用を始めることによって、現場レベルでの理解と経験を蓄積することが急務だ。次に10年後の自社ポジションを明確化した長期ビジョンの再設定が必要となる。現在の事業延長線上ではなく、AI時代における新しい価値創造の可能性を探求する視点が求められているのだ。
さらに収穫逓増型事業への転換検討も必要となる。競争優位が時間とともに強化される事業モデルの構築により、従来の価格競争や効率化競争から脱却し、独自のポジションを確立することが可能となる。
これらの取り組みを通じて、日本企業もAI時代の変革の波に乗り、新しい成長軌道を描くことが可能となる。孫正義氏の50年間の一貫した思いと準備が結実する今、日本の経営者にとってこれは最後のチャンスかもしれない。AI時代における「革命的経営者」への転換が、企業の生き残りと成長の鍵を握っている。
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