AI時代の新職種はどう生まれる? 「緊急度×重要度」のマトリクスが示す答え:働き方の見取り図(1/2 ページ)
発達を続ける【機械側の視点】を軸に仕事側の変化を想像すると、雇用喪失といったネガティブな景色ばかり目に入りがちだが、【仕事側の視点】を軸にして眺めると、機械任せがもたらす全く違う景色が見えてくる。視点を変えることで見える未来の仕事像とは、どのようなものなのでしょうか?
「雇用の47%が、AIなどの機械によって自動化されて失われる」と指摘した論文「雇用の未来」が発表されてから12年。現実には雇用の半分近くが消えるような事態は起きていませんが、私たちの身の回りでは、確実に“機械任せ”の範囲が広がっています。
生成AIは企画時のアイデア出しや社内資料の作成、チャットボットによる問い合わせ対応など広範囲に使われ、仕事の相棒として身近な存在となっています。飲食店では配膳ロボットが動き回る姿を見かけることもめずらしくない光景となりました。
これら発達を続ける【機械側の視点】を軸に仕事側の変化を想像すると、雇用喪失といったネガティブな景色ばかり目に入りがちです。しかし、【仕事側の視点】を軸にして眺めると、機械任せがもたらす全く違う景色が見えてきます。
視点を変えることで見える未来の仕事像とは、どのようなものなのでしょうか?
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
仕事を「変質」「減少」させるテクノロジー
これまでの歴史を振り返ると、テクノロジーは私たちの暮らしや仕事のあり方を大きく変えてきました。例えば、移動手段。かつては徒歩や馬車移動がメインでしたが、自動車の登場で激変しました。自動車を運転できれば、飛脚や馬よりもはるかに遠くへ、早くモノを運べるようになったのです。
だからといって、モノを運ぶという仕事自体がなくなったわけではありません。健脚を生かすことができた仕事は減ったことになりますが、“運転”という作業へと仕事の進め方が変質したことで、健脚の人もそうでない人も、運搬業務に携われるようになりました。
一方で、受付業務のように、タッチパネルや内線電話に置き換えられ、人間が担当する機会自体が大きく減った仕事もあります。
このように、テクノロジーの進化には、仕事を「変質」させたり「減少」させたりする影響力があることは間違いありません。しかしながら、どのようなケースにおいても人間が担っていた既存の仕事をベースにしている点は共通しています。
テクノロジー自体が仕事を生み出すことはない
どれだけテクノロジーが進化しようとも、基本的にテクノロジー自体が新たな仕事を生み出すことはありません。なぜなら、仕事とはあくまで人間が必要とする取り組みであり、何が必要な取り組みかを判断し、決定するのは人間自身にしかできないからです。
人間のニーズこそが、唯一仕事を生み出せる母だと言えます。
ただ、機械はこれまで人間には難しかった作業を可能にします。さらに、テクノロジーの進化とともに機械にできることも増えていきます。生成AIの登場などはその一例です。機械は言葉で指示するだけでイラストを描いたり、プログラムを書いたりすることまでできるようになりました。
産業革命期に労働者が機械を打ち壊した「ラッダイト運動」は、雇用が失われるという懸念から生まれた抵抗でした。生成AIが台頭する現在も、同様の懸念が広がっています。
しかし、人間のニーズはいま顕在化しているものが全てではありません。本当は必要なのに、時間や労力が割けないなどの理由であきらめていることはたくさんあります。
新しい仕事は「緊急度×重要度」のマトリクスから見えてくる
では、この生成AI時代に、どんな分野に新たな仕事が生み出される余地があるのでしょうか。これは、仕事の「重要度」と「緊急度」の度合いを掛け合わせて4つのカテゴリーに分類することで把握しやすくなります。
緊急度と重要度が共に高い「重要顕在ニーズ」の仕事には、基本的にどんな職場でも最優先で取り組むことになります。できる限り効率的に仕事しようとするならば、ここに該当する仕事に絞ればよいと言えるカテゴリーです。お得意先からの緊急の依頼や大きなクレーム対応などが当てはまります。
次に、緊急度は高いものの重要度は低い「非重要顕在ニーズ」の仕事についても優先的に対応されることが多いと思います。「今日の仕事終わりに飲みにいこう」などと誘われた返事とか、重要な報告を含まない日報の入力などが当てはまりそうです。
以上、顕在ニーズカテゴリーの仕事は、テクノロジーの進化によって目に見えて変質・減少する主な対象となります。
また、緊急度も重要度も低い「非重要潜在ニーズ」の仕事は、取り組む必要性があまりありません。誰かの役には立つのかもしれませんが、取り組むことで生産性が下がります。十分きれいな職場の窓ガラスをさらにピカピカに磨くとか、社内書類の作成で、ほとんどの人が気付かない細かいフォントの微調整にこだわる、といった仕事が当てはまりそうです。
新たな仕事を生み出す観点から最も重要になるのは、緊急度は低いものの重要度が高い「重要潜在ニーズ」の仕事です。本来は取り組んだ方がいいにもかかわらず、手が回らず後回しにされているような仕事はどんな職場にもあると思います。
特に該当するのは、安全管理やマネジメント、ホスピタリティーなどに関する仕事です。
機械任せにできるタスクが増えると、こうした仕事に時間を割けるようになる、いわば「時産効果」が期待されます。生まれた時間を重要潜在ニーズの仕事へと振り向けていけば、人間が担う仕事像は一新されていきます。
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