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キヤノンMJは、どのように「商談プロセスの7割をデジタル化」したのか後編(1/2 ページ)

キヤノンMJでは、商談プロセスの約7割をデジタル上で完結する仕組み作りに挑戦しているというが、具体的にどのような取り組みをしているのだろう。

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 openpageの藤島誓也社長が、営業DXのトップランナー企業と対談する本連載。第1回は、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)にインタビューを実施した。

 キヤノンMJはこれまでカメラやプリンター、複合機などのハード商材を主力にビジネスを展開してきた。これらキヤノン製品事業に加えて、継続して「ITソリューション事業」を強化しており、売上構成比は5割超える。

 サービス提供型ビジネスの拡大やソリューション営業の強化が求められる上に、労働人口は減少していく。そんな中でも、効率的な営業活動を実現するために、同社では営業DXに取り組んでいる。今回は林寛之氏(キヤノンMJ ソリューションデベロップメントセンター部長)へインタビューした。

※openpageは2024年8月からキヤノンMJと資本業務提携し、営業DXを推進するべく、その手段の1つとしてデジタルセールスルームの活用を強化している。


 前編では、これまでカメラやプリンター、複合機などのハード商材を主力にビジネスを展開してきたキヤノンMJがITソリューション事業を強化している背景や、営業DXの新たな取り組みについて紹介した。商談プロセスの約7割をデジタル上で完結する仕組み作りに挑戦しているというが、具体的にどのような取り組みをしているのだろう。

 「野球でいえば、従来の『先発完投型』に加えて、『7回まではデジタルセールスで顧客との信頼関係を構築。8回から営業担当者がより質の高い商談に専念する』体制を目指している」──こう話すのは、推進するソリューションデベロップメントセンター部長の林寛之氏(デジタルドキュメントサービス企画部)。

 後編となる本記事では、同社が実践する具体的な取り組みと、その成功要因について詳しく解説する。聞き手はopenpage 代表取締役の藤島誓也氏。

「商談プロセスの7割をデジタル化」 どう実現?

藤島氏: 営業のデジタル活用といえば、一般的にSFA(営業支援システム)のイメージが強いですよね。

 しかしSFAは顧客情報を記録・管理するデータベースが中心で、営業接点自体を変えているわけではありません。キヤノンMJでは顧客との接点や情報提供の仕組みそのものをデジタル化している。本質的なDXが進み始めていると思います。

林氏: 米国ではセールスオペレーションにおいて「プレイブック」(デジタルツールやデータを活用して成果を最大化するための「標準化された営業戦略・手順書」のこと)を言語化し、データを活用した営業アプローチの磨き込みが進んでいます。しかし日本では、デジタル上での案件発見や案件醸成活動が十分とは言いにくのではないでしょうか。強い営業パーソンがいるからこそ、デジタル的なアプローチは一般的に取り入れにくい状況もあるのではと推察します。

 そこで当社は、商談プロセスそのものをデジタル化し、型として再現可能にする取り組みを進めています。openpageのデジタルセールスルームを活用して、営業として「どのように顧客からヒアリングし、何を話すかのトークスクリプトも決め、何を提案して、どう認識合わせをし、どんなネクストアクションを進めていくか」──サービスやソリューションの種類ごとに商談回数を決め、商談醸成活動をデジタル化。“型”として確立していこうという挑戦です。


(提供:キヤノンMJ)

 また、これまで人が対面で伝えていた情報を、デジタルセールスルーム上でも同じように伝える仕組みを構築しています。商談の議事録やサービスの説明動画、提案書、見積書といった情報をデジタルセールスルームに集約し、お客さまと何度も打ち合わせをしなくても必要な情報が伝わる状態を作っています。現在は、セキュリティ系のサービス、中小向けのサービス、デジタルドキュメントのサービスにて一部利用している状況です。


(提供:キヤノンMJ)

デジタルセールスは「顧客と関わる部分のデジタル化」が重要

藤島氏: これまでの営業活動におけるデジタル接点といえば、メールや広告といったマーケティング寄りの取り組みが中心でした。しかしデジタルセールスは本来、営業担当者が行う顧客との対話や提案活動そのものをデジタル化することを目指しています。

 キヤノンMJは、この違いを押さえてopenpage導入の目的を明確化したことが成功の要因だと思います。

林氏: デジタルマーケティングは広告活動のデジタル化ですが、デジタルセールスは人が介在して、顧客に寄り添うことのデジタル化です。顧客に向き合い、顧客と対話し、顧客が求める課題解決に向けて提案する──営業のやるべきことのデジタル化、これがデジタルセールスの本質だと考えています。


林寛之氏(キヤノンMJ ソリューションデベロップメントセンター部長)(提供:キヤノンMJ)

林氏: この仕組みにより、従来の「先発完投型」の商談プロセスに加えて、野球で例えると「7回」まで顧客との関係性をデジタル上にて実行し、案件が十分に醸成された段階で、営業担当者がクロージングに専念する「リレー方式」を構築しています。

藤島氏: キヤノンMJの特徴は、顧客が求める情報を的確に提供する仕組みを構築していることです。

 お客さまに「資料をください」と言われた際に、単に資料を渡すだけではなく、デジタルセールスルーム上で顧客との商談の議事録、必要な資料、さらに関連する豊富なデジタルコンテンツを一元的に提供しています。担当営業に問い合わせなくてもかなりの情報をセルフサービスで得られるので、顧客は自分の興味のあるコンテンツを好きなタイミングで閲覧して課題を客観的に理解でき、その過程で自然とサービス理解が進むというわけです。

受注までの商談回数が「5→3回に」

林氏: あるサービスでの商談プロセスでは、受注までに5回の訪問が必要だった商談が、デジタルセールスの取り組みによって3回程度で購入可否が分かるようになりました。

 商談内容をリアルタイム共有し、バイヤーイネーブルメント(購買担当者が社内で稟議を通しやすくするための支援)も実現できています。さらに、セールスコンテンツの閲覧履歴を可視化することで、顧客の関心度合いを把握できるようになりました。

 「この動画まで見てくれている」「この事例を見ているなら真剣に検討している」と優先度をつけることができます 。例えば、価格表だけでなく明細まで見ているなら購買意欲が高い──など細かくデータで判断しています。顧客の行動データから状況を抽出し、効率的にアプローチする。これで商談の案件化率を大幅に向上させました。

 社内の利用ユーザーからは、営業活動の中で次に何を行えばよいかが型化されているので、上司に聞かなくても顧客との商談をうまく進められると好評を博しています。デジタル上の営業コミュニケーションで案件化率、お客さまの購買意欲を高めることで、最終的なクロージングに向けて営業が集中できる状況を作り出しています。

藤島氏: それは大きな効率化ですね。データに基づいた営業活動により、従来の“人の感覚”に頼る営業活動を可視化していっているのですね。

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