「AIに代替されないスキル」を持つエンジニアを見抜く方法は? 必ず聞くべき「6つの質問」(1/3 ページ)
生成AIの台頭は、エンジニアリングの現場にとどまらず、エンジニアの採用領域にも影響を及ぼしています。本稿では、企業と求職者の双方の視点から、生成AI時代におけるエンジニア採用について考察していきます。
著者:芦野成則
レバテック株式会社 リクルーティングアドバイザー
一橋大学を卒業後、官公庁に5年半勤務し、2019年にレバレジーズに中途入社。企業の採用支援を行うリクルーティングアドバイザーとして、多角的な視点から採用支援を実施
ChatGPT、GitHub Copilot、Cursor、Devin──生成AIの台頭は、エンジニアリングの現場にとどまらず、エンジニアの採用領域にも静かに影響を及ぼしています。
近年、生成AIの進化に伴って、米国のテック業界では大手企業を中心に、リストラの動きが見られます。この流れは日本にも波及しており、SES(System Engineering Service)や受託開発を中心とする企業の淘汰(とうた)、スタートアップ投資の縮小、DXブームの反動など、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら、国内のエンジニア採用市場にも影響を及ぼしています。
こうした環境変化の中で、採用担当者が直面する問いは、極めてシンプルです。
「この候補者は、AIに代替されない力を持っているか?」
採用はもはや、単なる開発リソースの確保ではありません。今求められているのは、AIでは代替できない価値を持つ人材への投資です。
では、企業が注目する「AIに代替されない価値」とは何を指すのでしょうか。それは単に「AIにできないこと」を意味するのではなく、AIを理解し、活用し、共に価値を生み出す力や、技術を通じて人や組織を動かす力を指しています。こうしたスキルは、今後ますます重要な人材要件として位置付けられていくでしょう。
本稿では、こうしたスキル変化に着目しながら、企業と求職者の双方の視点から、生成AI時代におけるエンジニア採用について考察していきます。
AIに代替されないIT人材を見抜く「6つの質問」とは?
レバテックがIT人材3000人を対象に実施した調査では、およそ4割が「エンジニアに求められるスキルが変化した」と感じていることが明らかになっています。
とくに重要性が増しているスキルとしては、「プロンプトスキル」(47.5%)、「コミュニケーションスキル」(38.3%)、「プレゼンテーションスキル」(27.5%)が上位を占めました。生成AIを活用するためのリテラシーだけでなく、他者と協働するための非テクニカルスキルの必要性も高まっていることがうかがえます。では、リテラシー面のスキルと非テクニカルスキル、それぞれを深掘りしてみましょう。
技術・AIリテラシー面のスキル
(1)AIツールを業務で活用するスキル:GitHub Copilot、ChatGPT、Cursorなどの生成AIツールを実務で日常的に使いこなし、アウトプットの質や業務効率を高めるスキル。単に使用していることではなく、「使いこなして成果に結び付けているか」が問われます。
(2)AIとの対話設計スキル(プロンプト・設計力):AIに対して的確な指示を与え、意図通りの成果物を引き出すスキル。生成されたアウトプットの品質を見極め、必要に応じて自ら手を加える判断力と編集力も含まれます。
(3)現場での適用力(技術基盤と構成力):LLM(大規模言語モデル)やEmbedding(自然言語を計算が可能な形に変換すること)の限界、RAG構成など、生成AIの技術的背景を理解したうえで、複数のツールを組み合わせて業務フローに適用できるスキル。単なる知識ではなく、現場での「構成・運用の実践力」が重視されつつあります。
非テクニカルスキル
(1)対人スキル(コミュニケーション・ピープルマネジメント):異なる職種や立場のステークホルダーと協働し、信頼関係を築きながらプロジェクトを前に進めるスキル。単なる会話能力ではなく、関係性の中で成果を生み出す力が問われます。
(2)企画・提案能力:曖昧(あいまい)なニーズを正確に捉え、言語化・構造化して提案につなげるスキル。要件定義や戦略立案といった上流工程に携わる上で欠かせない要素といえるでしょう。
(3)課題発見・プロジェクト管理力:顕在化していない問題をいち早く察知し、それを構造的に整理・分解する思考力。問題解決と推進力の両輪は、プロジェクトマネジメントにも不可欠な素養です。
生成AIが得意とするのは、定型的・反復的な業務や、指示に従ったタスクの遂行です。だからこそ、求職者の間では、こうした「AIには代替されにくいスキル」への意識が高まっているといえるでしょう。
これからの時代に求められるのは、AIに勝る人材ではなく、AIと共に価値を創出できる人材です。スキルや知識に加え、創造性や協働性、人間らしさを発揮できるかどうかが、キャリアの選択肢や活躍の幅を大きく左右することになります。
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