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リカバリーウェア「BAKUNE」が“爆売れ” TENTIAL社長が描く「上場の次の成長戦略」

リカバリーウェア「BAKUNE」が好調のコンディショニングブランド「TENTIAL」中西裕太郎CEOに、株式上場を経た今後の成長戦略」について聞いた。

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 リカバリーウェア「BAKUNE」など機能性商品を販売するコンディショニングブランド「TENTIAL」(テンシャル)は2025年8月期(2025年2月1日〜2025年8月31日、7カ月の変則決算)の営業利益を6億4900万円から11億4100万円に上方修正した。ブランド認知が継続的に拡大していることに加え、累計販売枚数100万枚を突破したBAKUNEを中心に販売が好調だという。

 同社CEOの中西裕太郎氏は高校時代、サッカー選手への道を歩んでいたものの、病気によって競技の継続を断念。挫折を機に、スポーツで培った身体ケアの知識を社会に還元したいとの思いを抱くようになった。2018年の創業以来、人々のパフォーマンスを引き出す製品やサービスを提供し、科学的根拠を武器に成長を続ける。

 同社はJリーグの育成年代選抜選手への支援も手掛けている。その他、運送、ホテル、航空業界といったB2Bの業界の健康経営にも着手。株式上場を経たあとも、多くの企業の信頼を獲得している。「健康投資」の変革に挑むテンシャルの中西氏に、今後の成長戦略について話を聞いた。


中西裕太郎(なかにし ゆうたろう)TENTIAL代表取締役CEO。プロサッカー選手を目指した高校時代に病気で夢を絶たれた経験から、起業に関心を持つ。ベンチャー企業と大手企業などで数々の経験を積み、2018年に株式会社TENTIALを創業し、翌年コンディショニングブランド「TENTIAL」を立ち上げる

BAKUNEは爆売れ 社長が描く「上場の次のステージ」とは?

 テンシャルは2025年2月、東京証券取引所グロース市場に株式上場を果たした。創業からわずか7年でのスピード上場は、国内アパレル、ヘルスケア業界でも異例だ。

 上場の目的は単なる資金調達ではない。特に大手企業との協業や海外ブランドとの連携では、上場企業というステータスが取引判断に直結する場面も多い。

 上場後は、成長とガバナンスの両立が課題となる。中西氏は「株主や社会からの期待に応え続けるため、短期的な売り上げよりも長期的なブランド価値を重視する経営を徹底する」と語る。今後は、エビデンスベースの商品開発や、同社のビジョンの根幹にあるコンディショニングの啓蒙活動に一層注力する方針だ。

 BAKUNEは着用による血行促進エビデンスを取得し、一般医療機器として届け出をしている。中西氏は「栄養や運動は管理しやすい一方、睡眠は個人任せになりがちです。だからこそ介入の余地が大きいと考えています」と話す。


一般医療機器のリカバリーウェア「BAKUNE」は累計販売枚数100万枚を突破(プレスリリースより)

 テンシャルはJリーグの育成年代選抜選手への支援にも取り組む。背景には、中西氏自身の選手時代のエピソードがある。10代の頃は「多少の無理は大丈夫」と思い込み、疲労や睡眠不足を軽視しがちだった。だが、それが長期的なパフォーマンスの低下やケガの温床になることを、身をもって痛感したのだ。

 「クラブなどでは、食事や身体のケアは十分にされています。一方で睡眠に関してはしっかりとサポートできていないのが現状です」と警鐘を鳴らす。

 そこでテンシャルは、Jリーグの育成組織や選抜チームに対し、元プロアスリートが講師を務める睡眠セミナーを実施。睡眠の重要性、深部体温の変化と入眠の関係、交感神経と副交感神経の切り替え方などを、科学的根拠と実体験を交えて伝えている。

 「憧れでもあるアスリートの実体験は、机上の理論よりも選手の心に響きます」

 セミナー後は、テンシャルのコンディショニング製品を提供し、選手が自宅や遠征先でもセルフケアできるようにサポートしている。従来は個人任せだった睡眠管理を、全体で支援する仕組みに置き換えた。  

 この未来育成パートナーとしての契約締結では、Jリーグ公式との強力な連携により、日本サッカー界全体での競技力向上やブランド認知、波及効果を狙っている。6月に香港で開催された国際大会では、U-20Jリーグ選抜の新ユニフォームが披露された。このユニフォームにTENTIALのロゴが胸元に掲出され、他の育成世代でも使用される見通しだ。テンシャルがグローバルに知れ渡るきっかけとなりそうだ。

 製品提供を通じて得られる選手からのフィードバックも、今後の商品開発やコンディショニング研究に活用していくという。


TENTIALはJリーグと未来育成パートナー契約を締結。次世代選手のコンディショニングをサポートしている(プレスリリースより)

デジタルマーケを駆使して急成長 子どもや高齢者向け商品も開発予定

 創業当初からオンライン販売に注力してきた。デジタルマーケティングを駆使して全国の顧客へ直接訴求するなど、口コミによる拡散もあり急成長を遂げている。現在は全国にリアル店舗15店を展開。実物を試したい顧客層にも対応する。

 ターゲットは30〜50代を中心に男女半々。健康投資の意識が高い層だけでなく、今後は全年齢層を支えるブランドとして、子どもや高齢者向け商品も開発予定だ。

 拡大するヘルスケア市場では、誇大広告やグレーな表現も少なくない。中西氏は「『ただ売れればいい』ではなく、効果を検証し、法令を順守する誠実な企業だけが市場を成長させられる」と断言する。

 テンシャルは、第二種医療機器製造業の免許を取得。社内にもコンディショニング研究所を設置し、行政機関や大手企業などとのアウトカムの検証も多く実施している。このような市場の信頼を守る姿勢が、同社のブランド価値の根幹にあるのだ。

 テンシャルは、コンディショニングブランドとしてのブランド価値確立に向けて、B2B分野のビジネスにも積極的に取り組む。多様な業界に健康投資を提案し協業している。特筆すべきなのは、長時間勤務や不規則勤務による健康課題を抱える業界への導入例だ。

 例えば、ドライバーの疲労軽減プロジェクトを推進。ドライバーたちは長距離移動や夜間運転が続く職場環境を強いられており、睡眠の質の低下が事故リスクや健康障害の要因にもなっている。

 テンシャルは、愛知県瀬戸市にある大橋運輸の従業員を対象に、リカバリーウェアやリカバリーアイテムを使って数カ月にわたる実証実験を実施。翌日の倦怠感に加え、腰や肩のこりの軽減、入眠時間の短縮といった改善が確認されたという。

 ホテル業界でも、ラグジュアリーホテル「シックスセンシズ京都」の客室に、製品を常備。滞在中の睡眠体験を通じてブランドを認知してもらうことによって、宿泊後に製品を購入する顧客も増えているという。

 航空業界では全日本空輸(ANA)が機内のアメニティとして採用。乗客の長時間フライトでの快適性を向上させるとともに、グローバルでのブランド認知にもつながった。B2B展開の狙いについて、中西氏は「企業の健康投資は、従業員のポテンシャルを発揮させるためにも積極的に取り組んでいただきたい」と語る。


全日本空輸(ANA)が機内のアメニティとして採用(プレスリリースより)

社員のポテンシャルを引き出す組織づくり

 社名の「テンシャル」の由来は、「ポテンシャル」でもある。その「ポテンシャル」は、ユーザーだけではなく自社の社員にも適用しているという。

 年齢や経歴に関係なく昇進の機会を与え社員のモチベーションを上げる。経営会議など主要な会議を開かれた場とし、現場の声を意思決定に反映させるなどして、各社員のポテンシャルを引き出しているのだ。「意思を持てば会社は変わる」という意識を持たせ、社員一人一人の成長を重視する。

 ただ現在、社員数が110人を超え、経営と現場の遠隔化が進んできた。中西氏は「ミッションやバリューの隅々までの共有と、ブランド体験の一貫性維持が課題」だと語る。全員がテンシャルブランドの代弁者であるという意識を持たせるために、言葉や定義を磨き続けているという。

 今後の展望としては、衣服だけでなく空間領域への拡張も検討中だ。「豊洲セイルパーク」(TOYOSU SAIL PARK)内のシェア型企業寮「TRIAL HOUSE TAMESU」の全39室に、BAKUNEをはじめとする4種のテンシャル製品を導入。この取り組みは、テンシャルが企業寮への製品導入をする初の事例となった。


シェア型企業寮「TRIAL HOUSE TAMESU」の全39室に、リカバリーウェア「BAKUNE Dry」や機能性掛け布団「BAKUNE Comforter」など4製品が導入(プレスリリースより)

 テンシャルは、アパレルメーカーでもスポーツメーカーでもない。日常の体を整えるコンディショニングブランドとして、科学的根拠と誠実さを武器に新たな健康投資文化をつくっていく。その挑戦は、アスリートの原体験、企業としての倫理観、そして株式上場で得た社会的信用を背景に、今後も進化を続けていきそうだ。

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