イオンの攻勢、セブンの苦境――「スーパー大再編時代」と寡占化の行方:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
各地でM&Aを行い、小売業のトップの座を確立しつつあるイオン。一気に攻勢をかける理由は何なのか。そして次なるライバルはどの企業なのか。
トップを取ったイオンが、一気にシェア拡大を目指す理由は?
2025年2月期でイオンのスーパーの売上高(総合スーパーと食品スーパーの合計)は、10年前の2015年2月期から1.1兆円増の6.6兆円となった。この規模はスーパー業界として圧倒的な国内トップであり、前述の通り、地域ごとのシェアにおいても、すでにトップの水準に達している。
そんなイオンが今、地域ごとのシェア拡大を一気に加速しようとしているのは、業界環境が大きく変化し、大再編の時代に入ったからに他ならない。
長く続いたデフレが終わり、インフレへと転換したことで、労働集約的な日本型スーパーのオペレーションが続けられなくなったことが要因だが、その点について少し説明したい。
チェーンストア理論では、食品の小分けやパック詰め(流通加工)などは集中加工センターを設けて処理し、店舗には処理済みの商品を配送して売るという流れ(センター供給)が効率的とされている。
ただ、魚食や生食文化の日本の消費者は生鮮品の鮮度に敏感であるため、各店舗のバックヤードに作業場を設けて流通加工し、「今切ってパックしました!」とアピールする手法(インストア加工)がスタンダードになっている。そのため、日本のスーパーは、流通加工が分散化して店舗に残っており、チェーンとしての規模の利益が働きにくく、結果的に寡占化は進まなかった。
しかし、近年の人手不足の深刻化と人件費高騰によって、労働集約的なスーパーのオペレーションコストが高騰し、収益の確保が難しくなってきた。中小スーパーが各地域で頑張っていたが、収益性が低いため、人件費などの高騰で赤字化するケースも増えている。さらに、価格転嫁に苦しむ中で光熱費も高騰し、収益率を落とした。従来の延長線上では経営を維持していくことは難しくなってきているのである。
この状況への対策方法は、スーパーのオペレーションをセンター供給型にシフトしていくことであり、すでに大手スーパーの多くが生鮮や総菜などの集中加工センターを導入して供給体制を変えていこうとしている。
鮮度に敏感な消費者を意識し、流通加工の最終段階を店舗に残しつつも、前工程を集中加工センターでの処理に切り替えるといった手法を採用する企業が多い。
しかし、完全にセンター供給で完結するというチェーンも出始めている。それがイオンのまいばすけっとである。バックヤードのないコンビニ跡地に居抜き出店できるまいばすけっとは、センター供給型のスーパーの完成形であり、今や売り上げ2903億円、経常利益81億円と、持続可能な業態として確立されている。
いずれにしても、センター供給をベースとしたオペレーションが、これからの主流となることは間違いないだろう。
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