2015年7月27日以前の記事
検索
インタビュー

石破首相が打ち出すスタートアップ支援強化 Web3と生成AIで進める「次の5年」

石破政権はWeb3をはじめとするデジタル技術によって、日本の「次の5年」をどう変えようとしているのか。8月25日に都内で開催した「WebX2025」の基調講演の内容をお届けする。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

 スタートアップ支援と地方創生の両輪で日本経済を再興する――8月25日に都内で開催した「WebX2025」の基調講演に登壇した石破茂首相は、ブロックチェーンやNFTを核に、地方創生をはじめとする社会課題解決を加速させる方針を示した。

 石破首相は、日本のスタートアップ企業が2021年の1万6000社からこの4年間で9000社増加していることを紹介。2022年11月に岸田政権が閣議決定した「スタートアップ育成5カ年計画」を継承し、Web3や生成AIの活用によって今後も強化していくことを明言した。

 石破政権はWeb3をはじめとするデジタル技術によって、日本の「次の5年」をどう変えようとしているのか。講演内容をお届けする。

photo
8月25日に都内で開催した「WebX2025」の基調講演に登壇した石破茂首相(写真撮影:河嶌太郎)

アフリカで活躍進む日本発スタートアップ Web3と生成AIの活用は?

 石破首相はまず、8月20〜22日にかけて横浜で開催した第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の成果を報告した。石破首相は34カ国の大統領、首相、国王と個別に会談し、横浜宣言を採択。協力文書は300件を超えた。

 石破首相は「世界人口の4分の1を占める未来のアフリカと共に成長する」と語り、課題解決と成長を同時に実現するパートナーシップの意義を示した。具体例として、交通手段が整わないケニアやエチオピアで、日本のスタートアップ企業が主導し、電動バイクを生産して、再生可能エネルギーで充電するバッテリー交換ステーションを整備する事業を紹介。官民連携で新たな成長を実現する決意を示した。

 近年、日系スタートアップ企業がアフリカを目指す動きが加速している 。石破首相も言及したケニアでは、現地企業ARC Rideと組んだ武蔵精密工業(愛知県豊橋市)が電動バイクのバッテリー交換網を100拠点超に拡大し、低コストの電動バイクを使い続けられる仕組みを実装段階に乗せている 。他にも、感染症対策や農業支援、教育など、多くの日本発スタートアップがアフリカで活躍している。こうしたスタートアップ企業はいずれもTICAD9で追加資金の調達や共同事業の契約を進めるなど、現地の課題解決と市場開拓を同時に進めている。

Web3と生成AIの活用で「スタートアップ育成5カ年計画」を強化

 日本政府は、このようにアフリカをはじめ国内外で活躍の場を広げるスタートアップを新たな成長と社会課題解決の中核と位置付け、支援の加速を明確にしている。2021年に約1万6000社だった国内スタートアップは今年およそ2万5000社に達し、4年間で約9000社増えている。

 政府は2022年決定の「スタートアップ育成5カ年計画」を軸に、人材・ネットワーク、資金供給と出口多様化、オープンイノベーションの三本柱を一体で推進。制度・資金両面からエコシステムの底上げを進める。目標として、投資額を10兆円規模へと拡大し、ユニコーン創出の加速と企業数の大幅増を掲げ、官民連携の長期投資を促す。

 この4年間、ウクライナ情勢の長期化や米中対立の激化、各国の保護主義的政策の再強化など、地政学リスクが高まっている。これによりサプライチェーンの再構築やエネルギー安全保障などの課題が企業活動に重くのしかかっている。

 こうした中で石破首相は「新たな経済成長を実現し、社会課題を解決していくためには、スタートアップの皆様方の力が極めて重要」と話す。変化への機動的な対応力と革新的技術を備えるスタートアップを、新たな経済成長の原動力と社会課題解決の担い手として位置付ける。

 石破政権は今後、「スタートアップ育成5カ年計画」を強化していく。Web3を含めたデジタル関連産業やクリエイティブ産業、生成AIによる製造業や農林水産業の高度化など、新しい産業の発展に向けた投資支援、規制改革などの施策を進める。

photo
左から石破首相、武藤経産大臣

地方創生にもWeb3の積極活用を拡大

 政府は新技術を徹底的に活用し、地域に眠る潜在力を引き出す「地方創生2.0」を推進している。ハード整備に偏らず、文化やサービスといったソフトの魅力を高め、新たな人の流れを生み出すことが狙い。この中核を担う技術として位置付けているのがWeb3だ。

 政府は、分散型インターネットがもたらす透明性と信頼性が、地域社会への参加障壁を下げると見んでいる。データと価値が個人に帰属する仕組みが確立すれば、場所にとらわれない働き方が加速し、定住人口に依存しない経営の道が開ける。

 石破首相はこの一例として、地元鳥取県の隣の、島根県隠岐諸島の海士町の例を挙げる。海士町では、自治体課題の解決策を域外から募集し、採用された提案に対して町内で利用できる地域コインを付与する実証が進んでいる。

 外部の知見と地域通貨を循環させる仕組みが、離島に新たな活気を呼び込みつつある。大阪・関西万博でもWeb3を活用した多様な取り組みを展開しており、来場者がデジタルと実空間を行き来しながら参加体験を深められる設計を施している。石破政権はこれらの挑戦を後押しすべく、さらに安全かつ安心な利用環境の整備を急ぐ方針だ。

 石破首相は「世界は今100年に一度の転換期にある。18世紀の蒸気機関がもたらした産業革命と同じく、後世の歴史書はこの2020年代が大きな産業革命であったと書くのではないか」と語った。

 石破政権は、地方創生と産業革命級の技術革新を重ね合わせ、内外の人材と資本を地域に呼び込むエコシステムの形成を目指している。石破首相は蒸気機関が1764年に発明され、43年後の1807年に蒸気船が実用化された歴史を引き合いに出し、より早期の制度整備が技術普及の速度を左右することを強調する。

人口減社会の閉塞感をいかにWeb3で打破できるか

 石破首相は、国内の人口減少が止まらず、2025年時点で1億2000万人を超える人口が、2100年には半減する見方を示した。この最大の要因について石破首相は、「東京都の婚姻率が低く、出生率が最も低い。その東京に人口が一局集中している。人口が減るのは当たり前」と話す。

 石破政権は、歴史の大きな転換点に直面する今こそ、国家の再設計が必要と位置付ける。人口縮小下でも持続可能な社会モデルを構築するエンジンとして、スタートアップを指名する。取り組みの射程は日本国内にとどまらず、アフリカ、南米、アジアとの連携を起点とするグローバルな市場創造を志向し、国の閉塞感を打破する構えだ。

 石破首相は、「本日お集まりの皆さま方の活躍によって、Web3の革新が次々と生まれることを期待している」と呼び掛けた。政府は分散型テクノロジーを新産業の柱と捉え、制度整備や支援策を加速させる方針を示している。人口が縮む社会でも経済と文化の活力を損なわず、国際社会の信頼を維持できるかが今後の政策運営の試金石となる。

 政府は、スタートアップの発想こそが社会課題を価値へ転換させるとし、行政と民間の協創によって地理的制約を超えた雇用や関係人口の創出を目指す。地方と都市をデジタルでつなぎ、実体経済に循環を生み出すモデルが示せれば、人口動態に左右されない成長経路を描ける判断だ。

 さらに、国際連携の場を広げることが、少子高齢化で縮む国内需要を補うだけでなく、グローバル課題に日本らしい解を提供する契機になる。政策の実効性と民間の速度差を埋める調整力が試される局面でもある。今まさに正念場といえるだろう。

photo

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る