顧客データ取得は今の時代に合っていない 自販機アプリ「ジハンピ」が1000万DLされるワケ(2/3 ページ)
サントリーの自販機用キャッシュレスアプリ「ジハンピ」が、8月末時点で1000万ダウンロードを突破した。当初目標の2倍となる急拡大を達成した背景とは?
登録にメールアドレスすら不要。徹底的に簡略化した狙いは?
ジハンピの大きな特徴の一つが、徹底的に「シンプルさ」にこだわった点だ。利用者は商品を選び、アプリを開いて端末にスマホをかざすだけで購入できる。決済手段をその都度選ぶ必要はなく、アプリの画面も「支払いにすすむ」ボタンと自身が選んだ決済・ポイントが見られるだけで、広告やキャンペーン表示も載せていない。
例えば、日本コカ・コーラが2016年から提供している「Coke ON(コークオン)」も、自販機キャッシュレス決済アプリの一つだ。ジハンピと比べると、歩数目標を達成するとスタンプがもらえる「Coke ON ウォーク」や、ドリンク購入ごとにスタンプを貯めてドリンクと交換できる機能、キャンペーン情報などが充実している。
一方でジハンピは、楽天ポイントなどが貯まる機能はあるものの、ほぼ決済手段としての機能しか搭載されていない。井上氏は、「自販機の本質的な価値は、すぐ飲み物を買えること。それに反する要素は削ぎ落した」と説明した。
登録手続きも徹底的に簡単にした。必要なのはSMS認証と決済手段の登録だけだ。社内からは「顧客データをマーケティングに活用すべき」との意見もあったが、ジハンピではあえて排除した。井上氏は「そういったものはお客さまに関係のない話。購買体験に関係のない項目を減らすことで、ダウンロード直後にすぐ商品を購入できるようにしたかった。個人的に、性別や年齢などでお客さまをセグメントするのは、今の時代に合っていないんじゃないかなとも思っている」と話した。
ジハンピ導入から半年で、キャッシュレス対応は約半数に
全国で約35万台の自販機を展開しているうち、ジハンピ対応機は17万台を突破。導入からわずか半年で、全体の半数近くがキャッシュレス対応に切り替わった計算になる。
急速に拡大できた背景には、設置のしやすさがある。従来のキャッシュレス端末は専門業者が工具を使い、時間をかけて取り付けていたが、ジハンピは飲料補充のスタッフが5分ほどで設置可能な仕組みにした。
ジハンピではNFC技術(対応する機器同士を近づけるだけで通信できる仕組み)を採用。設置に必要なのは、自販機の外側に取り付けるタッチ用の端末と、自販機内部に取り付ける機械の2つだけだ。配線を自販機内に差し込み、両端末を自販機に張り付けるだけで設置が完了するという。
早い普及を達成した一方で、開発のハードルは高かったという。端末の品質が不十分だと決済や商品の払い出しに支障が出る。自販機の機種は多岐にわたり、中には10年以上前に製造された古い機材も少なくない。さらに、自販機は地下や建物の端など通信環境の厳しい場所に設置されるケースもあり、あらゆる条件下で安定して稼働させる必要があった。また、スマートフォン側でもiPhoneやAndroidなど多様な機種で問題なく動作するよう開発しなければいけなかった。こうした制約に向き合いながら、利用客が「うまく使えなかった」と感じる体験を極力減らすことに力を注いだ。
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