製薬DXはなぜ難しい? 第一三共が突破した「組織・人材・規制」3つの壁:「DX銘柄」3年連続選出(3/5 ページ)
第一三共は2025年4月、経済産業省などによる「DX銘柄2025」に3年連続で選定された。DX企画部部長の上野哲広氏と、同部全社変革推進グループ長の公文道子氏に、具体的な取り組みを聞いた。
デジタル人材を社内で育成する意義
こうした課題を克服する基盤として、第一三共が重視したのがデジタル人材育成だ。同社では外部からのデジタル人材採用も進めているが、社内育成にも注力している。「DXのXであるTransformationは、単なるデジタル技術の活用ではなく、ビジネス自体の変革という意味もあると考えています。これを実現するためには、ビジネスとデジタルの両方を理解している人材を育てることが重要です」(公文氏)
同社の社員は製薬業界のビジネスに関する深い知識を持っている。彼ら・彼女らにデジタル教育をすることで両方の知識を兼ね備え、DX施策をリードできる人材や、デジタルを基盤とした新しい働き方に適応できる人材へと成長させるのだ。
そして、社員に提供する育成プログラムにも力を入れている。2022年頃から本格化した人材育成は、大きく分けて全社共通プログラムと各組織向けプログラムの2つ。組織別プログラムでは各部門のDX推進担当者と綿密に情報交換を行い、組織固有のニーズに合致したプログラムを設計・提供している。その規模は圧倒的で、2025年度上半期だけで68のプログラムがあり、実施セッション数は100を超える。受講は自由選択制で、年間を通じて継続的に提供されている。
講師についても、基本的には外部業者の支援を受けるが、AI・データサイエンス分野では社内の専門社員が担当。これにより、一般的な知識だけでなく、製薬業界や自社の業務に即した、実践的なスキル習得が可能となる。
こうした教育体制の構築と並行して、人材育成の目標も体系的に設定している。取り組み当初から各組織と連携し、DX推進に必要な人材のレベルと人数を明確化した上で、その目標に合わせたプログラムを提供する方式を採用。結果として、高い充足率を実現できているそうだ。
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