製薬DXはなぜ難しい? 第一三共が突破した「組織・人材・規制」3つの壁:「DX銘柄」3年連続選出(2/5 ページ)
第一三共は2025年4月、経済産業省などによる「DX銘柄2025」に3年連続で選定された。DX企画部部長の上野哲広氏と、同部全社変革推進グループ長の公文道子氏に、具体的な取り組みを聞いた。
組織、リソース、人材……DX化に立ちはだかる3つの障壁
さまざまな成果が見られ、順調にいっているように見える第一三共の全社DXだが、「大きく分けると組織、リソース、人材の3つの分野で障壁があった」と上野氏は振り返る。
まず組織面では、グローバル化との並行実施が困難を生んだ。上野氏によると、まず、グローバル共通でDXを推進できないかと考えた。しかし、組織自体は地域や国ごとに独立して運営していたため、意思決定の所在や役割分担、協力体制が明確でなく、効率的な推進が困難を極めた。
予算面では優先順位付けが課題となった。DX組織立ち上げ当初から各部門でDXへの関心は高く、さまざまな施策提案が上がってきた。だからこそ、予算に制約がある中でどの案件を優先すべきかの判断は困難だった。
人材面では、グローバルなDX推進に必要な人材の確保が課題となった。グローバルに通用し、かつ最新のテクノロジーに詳しい人材を確保または育成する必要があったが、そうした人材の獲得や育成は容易ではなかった。
DXを阻む製薬業界の難しさ
加えて、製薬業界特有の難しさも大きな障壁となった。医薬品の品質は、外見からは判断が難しい。そのため、研究開発から製造に至るまで、一貫して厳格な品質・安全性基準やさまざまな規制が設けられる。DXで導入するシステムにも同様の基準適用が必要であり、特に難しかったのが、コンピュータ化システムバリデーションと呼ばれる規制への対応だ。
「国ごとにコンピュータシステムの規制があるため、国や会社が異なると、バリデーションの実施方法や品質チェックの方法も違います」と上野氏。そこで同社は、グローバル共通のバリデーション手順書を作成することで、システム開発・運用を円滑化した。
さらに、データ活用においても製薬業界特有の制約がある。上野氏によると、臨床試験データなどは、取得時の目的や患者の同意範囲を超えた自由な活用はできないという。「どういう目的で集めたデータなのか」「患者の同意範囲はどこまでなのか」が前提となるため、適切なデータ管理と利用判断のガバナンス体制の確立が不可欠だった。
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