世界2.7億DL『Sky 星を紡ぐ子どもたち』が生まれるまでの軌跡 中国から単身渡米:38億円を資金調達(2/2 ページ)
全世界で2億7000万ダウンロードを超える大ヒットとなったソーシャルアドベンチャーゲーム『Sky 星を紡ぐ子どもたち』。中国・上海のゲームデザイナーであるジェノヴァ・チェン氏は22歳で渡米し、25歳のときにゲーム会社を起業した。なぜ、故郷を離れ米国でゲーム会社を始めたのか。チェン氏に聞いた。
7年間で2600万ドル(38億円)を調達
――2012年に『風ノ旅ビト』をリリースし、『Sky』のリリースが2019年ですから、開発に7年かけた形です。逆にこの7年間をかけられたおかげで、しっかりとした作品を完成させられたのでしょうか。
はい。『Sky』に至るまでの7年間で、私たちは4回の資金調達を成功させ、合計で2600万ドル(38億円)を集めました。実際、『Sky』の制作には『風ノ旅ビト』の約4倍の予算をかけています。その大きな投資によってこそ、構想していた世界をきちんと形にすることが可能になりました。
――他社から資金提供を受ける以上は出資者を納得させられるよう、万人受けする作品にしなければならなかったり、ジャンルに制約が生じたりする印象もあります。その点はいかがでしたか。
むしろ逆でした。以前、パブリッシャーから資金提供を受けていた時は、彼らがゲームについて非常に詳しいがゆえに、「もっと売れているゲームのようにしてはどうか」「チャット機能を入れたほうがいい」「プレーヤーの名前は表示すべきだ」といった具体的で細かい要望が数多く寄せられました。しかし、スマホゲーム市場に投資していたVCはゲームに詳しいわけではありませんでしたから、実際にはこちらにフリーハンドが与えられ、自由にクリエイティブを追求することができました。これは大きな違いでしたね。
――なるほど。それで2006年の創業当初から長年温めていたアイデアが、ついに『Sky』として結実し、世界規模で大きな成功につながったわけですね。
はい。『Sky』はリリース後、全世界で約2億7000万ダウンロードを達成しました。自分たちが目指してきた「誰もが遊べるゲーム」を実現し、これほど多くの人に受け入れていただけたことは、大きな喜びです。
VCへ示し続けた「船は進んでいる」証明 揺れたリーダーの自信
――素晴らしい成果だと思います。ちなみに、7年の長期にわたる開発の中で、特に大変だったことは何でしょうか。
7年という長い開発は終わりの見えない航海のようなものです。ずっと舵を握り続けている船長は自分で良いのか、そもそも過去の成功は自分の力だったのか、それとも仲間のおかげに過ぎなかったのか、といった疑問や迷いがたびたび浮かび上がりました。
また、開発中には重要な役割を担う船員、つまりチームの中核メンバーが降りてしまうこともありました。そのたびに新しい航海士を探し、乗り込んでもらわなければなりませんでした。また、資金を提供してくれているベンチャーキャピタルに対しても「ちゃんと航海は続いています。船は目的地に向かって進んでいます」と常に示さなければなりませんでした。
一番苦しかったのは、やはり自分自身の中での揺らぎでした。自分を信じられるかどうか、リーダーとしてやり抜けるのかどうか、何度も迷いました。それが最終的に確信へと変わったのは、実際にゲームをリリースした時です。つまり、リリースされるまでは本当の意味で自信を持つことはできなかったのです。
――実際、『Sky』はチェンさんの故郷・中国を中心に大ヒットとなりました。特定の市場を意識して開発した面はあったのでしょうか。
これまでの作品でも、『Sky』でも、どこか特定の地域をターゲットにした開発はしてきませんでした。作品をリリースするたびに、どこで人気が出るのかは自分でも予測が難しく、実際に作品によって国ごとに反応が異なるものでした。
例えば以前のゲームは、米国や欧州で非常に強く支持されました。『風ノ旅ビト』の場合は、私自身が非常にリスペクトしている日本のゲームクリエイター・上田文人さんから強い影響を受けたこともあって、日本で特に高い人気を得ることができました。そうした背景があったことは、ある程度納得できるものでした。
ただ、『Sky』が日本や中国でこれほど大きな人気を得られるとは、私自身まったく予想していなかったのです。日本で受け入れられた理由については、私の力よりも、むしろチームの仲間たちの貢献が大きいと思っています。
例えばアートを担当した田邊裕一朗や、オーディオデザインを担った水谷立といったメンバーによるビジュアルとサウンドの融合によって、日本のプレイヤーが深く共感する世界観を生み出せたのではないかと考えています。
「人を救う企業こそ成長する」 成熟した中国市場から得た確信
――チェンさんが生まれ育った中国で『Sky』が特に多く受け入れられていることについて、どのように感じていますか。
『Sky』は一般的なモバイルゲームとは違って、いわゆるガチャのような強い課金システムを導入していません。そのため、リリース当初は収益の伸びも非常に緩やかでしたし、大々的な広告投資もできませんでした。結果的に『Sky』が広がっていったのは、ほとんど口コミによるものでした。これは本当に幸運なことだったと思います。
さらに、2020年に新型コロナウイルスによるパンデミックが起き、世界中で非常に厳しいロックダウンが実施されました。同じ街に住んでいる恋人や家族、友達であっても会えない状況の中で、人々が『Sky』の中で再会する様子がTikTokに投稿され、大きなトレンドとなりました。恋人同士がゲームの中の世界で出会い、一緒に遊ぶ姿が多くの共感を呼び、それが一気に人気を広げていったのです。
また、ちょうどその時期にTikTok自体が爆発的に成長しつつありました。そのプラットフォームの拡大と、パンデミックという特殊な状況が重なったことが、『Sky』が中国で特に大きな支持を得るきっかけになったと考えています。
――現在の中国はゲーム市場として成熟し、多くの有力メーカーも誕生しています。この状況をどのように見ていますか。
中国のゲーム業界がここまで成熟し発展した事実は、私が以前から信じていたことを証明してくれたとも思っています。それは、その人が中国に住んでいようと、日本に住んでいようと、米国に住んでいようと、どこであっても、成功する企業というのは結局「人を救う企業」であることです。
ゲームが人々を助けることができるからこそ、ゲーム会社は成長できるし、業界そのものも大きく発展していく。私はそこが一番、大切な条件だと考えています。
――チェンさんが将来的に、中国に凱旋してゲーム開発をする可能性はあるのでしょうか。
『Sky』が日本や中国で大きな人気を獲得したことで、そのビジネスに関連する機会も飛躍的に増えました。今では中国、米国、日本、この3つの拠点を頻繁に行き来しています。実際、日本にもTGCの支社がありますし、中国にも支社を設けています。
私は米国を拠点にしていますが、この3カ国は世界のゲーム市場を牽(けん)引するトップスリーであると思います。その間を往復しながら開発を続けるのが、当面の自分たちのビジョンです。腰を据えてどこか一つに戻るよりは、むしろ3つの市場をつなぎながら新しいゲームを作り続けていきたいと考えています。
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