スズキが目指す“100キロ軽量化”の衝撃 クルマは軽ければ軽いほどいいのか:高根英幸 「クルマのミライ」(1/5 ページ)
自動車メーカーは、軽量化の技術開発に注力してきた。スズキは「100キロの軽量化」を掲げ、開発を進めている。一方、クルマの性能を高めるため、重量増となる改良を行うケースもある。軽く、強く、安全なクルマを作るための挑戦が続けられていくだろう。
高根英幸 「クルマのミライ」:
自動車業界は電動化やカーボンニュートラル、新技術の進化、消費者ニーズの変化など、さまざまな課題に直面している。変化が激しい環境の中で、求められる戦略は何か。未来を切り開くには、どうすればいいのか。本連載では、自動車業界の未来を多角的に分析・解説していく。
クルマにさらなる進化が求められている。EVには電池性能や急速充電技術、インフラ整備といった特有の問題がある一方、既存の内燃機関を使ったクルマにも電動車にも共通して求められる課題がある。
それは軽量化である。クルマは重量以外のスペックが同じであれば、車重が軽い方が走行性能のほとんどで有利に働く。加速・減速は当然として、燃費や衝突安全性、コーナリング性能など、およそクルマを評価する性能は軽い方が高まる。
そのため、自動車メーカーやパーツサプライヤー、素材メーカーはクルマを軽くするための技術開発に力を入れ続けてきた。樹脂化や薄肉化など、設計による形状の最適化をはじめ、材料の置換や表面処理なども駆使される。
エンジニアリングプラスチック、通称エンプラと呼ばれる高機能樹脂は、やがてスーパーエンプラへと進化して、ますますクルマへの採用率が高まっていった。
鋳鉄部品をスーパーエンプラに置き換えた例。これは三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズが開発したKyronMAX(カイロンマックス)という炭素繊維強化熱可塑性樹脂で、8割もの軽量化を実現。この製品は米ジープのラングラーとグラディエーターのルーフパネルやソフトトップを開閉・固定するための部品(筆者撮影)
鉄製部品をアルミ合金に置き換えれば、比強度(単位重量当たりの強度=軽く強い素材が分かる)の高さから、軽量化はたやすい。だが材料費が高い上に、部品形状の自由度が低く、他の部品との組み合わせも難しい。鉄同士であれば簡単に溶接できる条件でも、異素材となると話は別だ。接着剤の利用や摩擦溶接など、従来の電気溶接とは異なるアプローチを強いられ、克服してきた歴史がある。
ともかくエンジニアたちは、1グラムでもクルマを軽くするため、技術開発にいそしんでいる。それは30年以上は優に続く、自動車生産技術の要の一つだ。
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