手軽さの代償 休業手当トラブルが映す、スポットワークの構造的リスク:働き方の見取り図(3/4 ページ)
急拡大するスポットワーク。一方でさまざまな課題も顕在化し始めている。手軽さを追求したはずの仕組みが、知らないうちに「働く人を守れない構造」になっていないか――。便利さと危うさが同居するスポットワークの“今”を考える。
休業手当をめぐる“責任の空白”
さらに、現在注目を集めているのが、仕事キャンセル時の休業手当をめぐる問題です。
休業手当の支払い義務は、雇用主である求人企業が負います。スポットワーク事業者は求人と求職を仲介しているだけの立場に過ぎませんが、スポットワークの業界団体からは休業手当の支払いが不要となる労働契約の解約可能事由として11項目が示されました。
これは求人企業が目安にできるようにと親切心から出された見解なのだと思いますが、求人企業が解約可能事由通りに対応したからといって、休業手当を支払わなくてよいとは限りません。スポットワーク事業者に、休業手当の支払い可否を決められる権限があるわけではないからです。
中には、就労開始時刻の24時間前までであれば、求人情報の業務内容や日時に掲載ミスがあったという理由で解約しても休業手当の支払いは不要といった見解も示されています。しかし、働くつもりで予定を空けていた求職者からすれば納得できないかもしれません。
休業手当の支払いをめぐって見解の相違があれば労働基準監督署などに相談し、最終的な判定は訴訟などに委ねられることになると思います。しかし、スポットワーク事業者側が解約に対する見解を示すとそれが抑止力となり、本来は休業手当の対象となりうる求職者まで泣き寝入りしてしまうようなケースが生じることが懸念されます。
雇用主が責任を負う個々の労働契約に、責任を負わない立場のスポットワーク事業者が見解を示す形で介入することによって、求人企業にも求職者にも小さくはない影響を及ぼす可能性があるということです。
手軽さを追求したスポットワークを含め、日々紹介という事業で最も懸念されるのがこの点になります。サービスの利用を制限できる権限や、働きぶりを評価できる権限を持つスポットワーク事業者に対して、求職者は弱い立場です。不満を感じる事態が起きてもペナルティが頭をよぎると、意見が言いづらくなります。
雇用主としての責任を負わないスポットワーク事業者が求職者に対して一定の影響力を持つため、権限だけが行使できる状況です。この歪(いびつ)な力関係を悪用する事業者が現れたり、事業者側に意図はなかったとしても、求職者が意思を伝えづらい圧力を感じたりすると、不当な勤務条件や希望しない就業を受け入れさせてしまう事態も想定されます。
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