手軽さの代償 休業手当トラブルが映す、スポットワークの構造的リスク:働き方の見取り図(4/4 ページ)
急拡大するスポットワーク。一方でさまざまな課題も顕在化し始めている。手軽さを追求したはずの仕組みが、知らないうちに「働く人を守れない構造」になっていないか――。便利さと危うさが同居するスポットワークの“今”を考える。
権限だけ残る危うい構造 便利さの先に待つものは……?
休業手当については、多額の未払い賃金になっているとする指摘もあります。しかし、求職者に休業手当を請求しづらい心理が働いているとしたら、スポットワーク事業者との間に支配従属関係が形成される前兆とも言えます。そうなると、違法な労働者供給に該当する懸念が、現実味を帯びてきます。
実は、労働者派遣であればこのような問題が起きる心配はありません。仕事を仲介する立場にある派遣事業者自身が雇用主であるため、休業手当の支払いを含めて派遣事業者が責任を負うことが明確で権限と責任のバランスが取れているからです。
ところが、日雇い派遣は原則禁止とされ、権限と責任がアンバランスなスポットワークや日々紹介は認められているというのは皮肉なことです。労働者派遣は期間が長すぎるとさまざまな問題が生じやすいというのは世界共通の課題認識ですが、期間が短い日雇い派遣を禁止にしているのは日本しかありません。
スポットワークが広がってきたことで、求人企業も求職者も大きな恩恵を受けています。メリットが大きいサービスだけに、さらなる発展が期待されます。しかし、急速な拡大の裏側で課題への対応が後手に回り、権限に対して責任が伴わない状況も見られます。
求人掲載にミスがあったからと、24時間前以前であれば休業手当の支払いはなしで労働契約を解約できるとしたら、求人企業にとっては自力で採用するよりリスクが少なく便利なサービスでしょう。ただ、便利さを追求するあまり、求人企業が負う責任が軽くなるかのように錯覚させ、権限と責任の歪みがさらに深刻化していかないか心配です。
スポットワーク事業者の中には、セミナーを開催するなどして仕事キャンセルによる未払い賃金の発生に警鐘を鳴らし、求人掲載ミスであったとしても休業手当の支払い対象としているケースも見られます。いまのところ、事業者間の対応や見解には温度差があるようです。
業界全体がサービスの利便性追求に目を奪われ過ぎると、自浄作用が働かなくなり、未来には暗雲が漂うことになります。丹念に築いてきた事業を砂上の楼閣にしてしまわないためにも、現状を見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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