銀座の寿司をシリコンバレーへ ECサイト支援企業がスタンフォード大とハッカソンを共催したワケ(1/2 ページ)
スタンフォード大学が、日本のECサイト支援企業GDXと「Sushi Hackathon」を共催した。優勝賞金は3万米ドル、最終審査進出者には東京・銀座の「鮨 あらい」の寿司を会場で振る舞った。狙いを共催企業GDXの洞田(ほらた)潤社長に聞いた。
米シリコンバレーにあるスタンフォード大学(ウォルターH.ショレンスタイン アジア太平洋研究センター、以下APARC)が、日本のECサイト支援企業GDX(東京都渋谷区)と協業し、「寿司」(すし)を媒介にしたAI技術者の育成・発掘をしている。その名も「Sushi Hackathon」。2024年11月に第1回を開き、2025年10月に第2回を開催した。
優勝したのはカリフォルニア大学とスタンフォード大学の学生チーム「Sushi Innovation」。「AI活用で漁船メンテナンス負担を軽減するソリューション」をテーマに発表した。漁師が船舶のメンテナンスに多額の資金を投じていることに着目。漁師の船の故障とソナー監視のストレスを、既存の船のデータを使ってAIが代行することによって、コスト削減につなげるソリューションを提供するとした。見事、賞金の3万ドルを獲得(以下撮影:河嶌太郎)
第2回は約600チームが応募し、14チームを最終審査に選出した。最終審査は10月3日(現地時間)にスタンフォード大学内で開催。海洋漁業の課題解決をテーマに、各チームが約1カ月間かけて企画・開発したアプリを発表した。優勝賞金は3万米ドル、最終審査進出者には東京・銀座の「鮨 あらい」の寿司を会場で振る舞った。
なぜ、寿司をフックにしたハッカソン(開発コンテスト)を開いたのか。狙いを共催企業GDXの洞田(ほらた)潤社長に聞いた。
洞田潤(ほらた・じゅん)GDX代表取締役CEO。1981年生まれ。早稲田大学卒業後、三井住友銀行で法人営業など幅広い業務に従事。2013年にGDX(旧・五反田電子商事)に参画し、翌年より代表取締役CEOとして経営全般を統括。Eコマース事業の拡大と海外展開を推進し、現在はグローバル市場で次世代コマースの価値創出に取り組んでいる
10人の業務を「AIで3人に」 利益率で勝負する上場前の挑戦
――2024年に続きSushi Hackathonをスタンフォード大学と共催した背景を教えてください。
当社はこれまで、海外でいくつかのビジネスを展開してきました。タイで地域に根付いたEC事業を7年ほど続けており、それがかなりのスピードで成長しました。その理由を一言で言うなら、人脈によるネットワーキングです。
私や当社役員がタイの財閥関係者や著名人と密にコミュニケーションを取り、寿司を一緒に食べながら「このモールの物件を扱わせてほしい」といった交渉を積み重ねてきました。財閥関係者の友人がセレブリティでしたので、そのつながりを通じて紹介してもらう形で、最初に一気にネットワークを作り上げたことが最大のポイントでした。
日本ではあまり意識しないかもしれませんが、タイや米国ではトップダウンのスピード感が全く違います。トップ層を押さえることによって、事業の成長が一気に加速する。その仕組みを米国でも再現しようと考えました。今回のSushi HackathonによるAI事業の伸張も、その戦略の一環です。寿司というツールを使いながら、まず上層部との関係構築をすることから攻めていこうという発想でした。
寿司は日本のコンテンツの中でも、世界中で最も人気があります。私自身も超がつく食好きで、予約が取れない名店も一通り足を運び、寿司職人の皆さんとも深く関係があります。そうした方々の応援もあって始まったのが、このSushi Hackathonなんです。
――AI事業を伸ばすことが、Sushi Hackathonの目的の一つなのでしょうか。
そうです。私たちは各カテゴリーでトップを目指すなら、そのカテゴリーの“一番”と組む方針で動いています。AIも同じです。もともとわれわれはeコマースの会社で、表面上はデジタルな仕組みのように見えても、裏側はまだまだマニュアル作業が多いのが現状です。そこで、10人でやっていた業務を「AIで3人に減らそう」というところからAI活用を始めました。
なぜそこに力を入れるかというと、上場を目前に控えていることもあり、圧倒的な利益率とコストパフォーマンスを実現する必要があるからです。AIを導入して業務を徹底的に効率化すれば、他社には真似(まね)できないソリューションの強みを出せる。海外事業の展開にも大きな追い風になります。
また、当社は日本企業が海外出店する際の支援も手掛けています。AIによってコストを最小化できれば、海外進出に必要な資金が大幅に減ります。これまで慎重だった日本企業が一気に海外展開へ踏み出せるようになると考えています。そうした意味でもAIが事業のコアになると確信し、AI分野のトップであるスタンフォード大学と連携するに至ったわけです。
オイシックス子会社からスピンアウト 2度のMBOで誕生したGDX
――Sushi HackathonではAPARC所長の筒井清輝教授がモデレーターを務めています。もともと筒井教授とのつながりはあったんですか。
いえ、最初は全くありませんでした。最初に日本国内でいろいろと人間関係を構築していた中で、初代スタートアップ担当大臣を務めた山際大志郎さんを紹介されたのがきっかけです。そこから人脈が広がっていき、筒井教授と協業できるようになりました。
――洞田社長は特異な行動力をお持ちかと感じます。その原点はどこにあるのでしょう。
私は中高から柔道をやっており、早稲田大学の柔道部出身なんです。柔道を通じて、「とりあえずやってみよう」という精神が自然と培われました。道着を持ちながら世界を見てきたような感覚で、根っからの「やってみよう」という体質なのだと思います。
柔道部でアルバイトの時間が取れなかったので、自分でITの仕事を立ち上げていました。パソコン教室を開き、そこで稼いだお金でフレンチを食べに行くのが楽しみでした。
――体育会柔道部をやりながらパソコン教室を運営していたんですね。驚きです。
そうなんですよ。道着と一緒にパソコンを抱えていたような生活でした。当時はかなり変わり者に見られましたが。
――大学卒業後からGDX起業に至った経緯を教えてください。
当社は2007年創業で、もともとはオイシックスのコンサルティング会社がスピンアウトしてできた企業です。当初は「オイシックスECソリューションズ」というオイシックスの子会社でした 。それを創業者の吉田卓司がMBOして独立し、さらに私がその会社をMBOして今の形になりました。
私は大学に2000年に入学し、2004年に卒業しました。当時は就職氷河期で、日経平均株価が7000円台の頃でした。独立にはリスクがあると考え、まずは三井住友銀行に入りました。
「いつか自分で起業しよう」と考えていた時、旧創業メンバーの吉田と、マイクロソフト出身の金丸洋明 、それに私の3人がシンガポールで偶然再会したんです。屋台で飲みながら話をしているうちに「一緒にやろう」という流れになりました。最初はCFOになる予定だったんですが、「社長をやってくれないか」と言われて「いいよ」と即答しました。そうして今の会社に参画したのが始まりです。
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