元ドラフト1位投手、28歳で戦力外、そして回転寿司屋へ――異色キャリアの裏にあった決断(2/3 ページ)
プロ野球の夢を断たれた28歳の男が、次に選んだのはすし屋だった。「明日から来い」と言われ、皿洗いから再出発。元楽天ドラフト1位・森雄大が塩釜港で見つけた、働くことの意味とは。
ドラフト1位でプロ野球の世界へ
森さんは幼少期から野球一筋だった。中学時代には地元・福岡県選抜に入り、監督から「プロに行ける逸材」と評価された。
「当時の監督は、他の子たちにはプロという言葉をあまり使わない方でしたが、僕には本気で声をかけてくれました。『雄大は上のレベルで野球ができるものを持っているから、いろんなことがあっても投げやりにならずに頑張れ』と。15歳の自分には半信半疑でしたが、うれしかった記憶があります」
母子家庭で育った森さんは、何かある時には母親に相談するようにしたが、「基本的に僕がやりたいといったことを尊重してくれて、特に反対もされませんでした。あなたがやりたいんだったら頑張りなさい」と、いつも背中を押してくれたそうだ。
高いレベルで野球を続けるべく、強豪の東福岡高校へと進学した。1年生からベンチ入りし、2年生の夏から秋にかけては球速も向上。左腕から繰り出されるボールは最速148キロを計測した。プロへの道が現実味を帯びてきた。
高校3年間で甲子園出場はかなわなかったものの、2012年のドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスと広島東洋カープから1巡目指名を受ける。抽選の結果、楽天が交渉権を獲得し、ドラフト1位での入団となった。星野仙一監督からの期待も大きかった。
2年目にプロ初勝利を挙げるも……
プロ入り後、高卒ルーキーでありながら、森さんは決して臆することはなかった。
「同世代のレベルが高かったこともあって、『自分も通用するんじゃないか』と思っていました。全然違う世界に来たという感じはなかったです」
同学年には大谷翔平選手(現ロサンゼルス・ドジャース)や藤波晋太郎選手(現横浜DeNAベイスターズ)などがいて、彼らも早々に1軍でプレーしていたため、負けてはいられないと奮起した。
1年目は2軍(イースタン・リーグ)が中心だったが、2014年の2年目に1軍での開幕ローテーション入りを果たす。さっそく4月に西武ライオンズ戦で初勝利し、このシーズンは1軍で2勝を挙げた。翌年はイースタン・リーグで優秀選手賞を獲得。再び1軍での活躍を目指した矢先、経験したことのない試練が訪れる。2016年に胸郭出口圧迫症を発症し、2019年には血行障害と診断されたのだ。
「4年目は周囲の期待も大きく、自分でも『今年はローテーションに入る』と意気込んでいました。でも、冬から指先の感覚が鈍り始め、冷たくなりました。痛いわけではないので無理してオープン戦も投げましたが、気持ちと感覚のギャップに苦しみ、精神的に追い詰められました」
2020年には肘の手術(トミー・ジョン手術)に踏み切ったが、再び1軍のマウンドに立つことはなく、2022年秋、28歳で戦力外通告を受けた。クビを告げられた瞬間、森さんの心は既に決まっていたという。
「日本最高峰のプロでやって、最後は他の選手に敵わないというのも分かりました。けがもありましたし、踏ん切りがついたんです。もう野球は辞めようと」
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