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「ラブブ」トレンドは長くは続かない? ジレンマを抱える人気キャラが「失った価値」廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(3/6 ページ)

一気に人気キャラの仲間入りを果たしたラブブだったが、そのトレンドはもしかしたら長くは続かないかもしれない……。なぜか?

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ラブブは「誰もが知っているのに、ほとんどの人が持っていない」存在

 ラブブの人気が高まるにつれて、誰もが「欲しい」と思う存在になった。だがその一方で、一般の消費者が実際に手に入れることは極めて難しい。正規の販売は抽選制が多く、人気のマスコットは販売開始と同時に完売する。さらに、ラブブにはモデルごとに希少性の差があり、人気キャラクターや限定デザインほど価格が高騰し、正規ルートで入手できる機会はごく限られている。

 しかし、セレブやインフルエンサーが一体数万円を超えるラブブをいくつもコレクションしたり、TikTokやInstagramではインフルエンサーがラブブを紹介したりする動画が毎日のように拡散され、「人気のキャラクター」としてトレンドの中心に置かれている。SNSにおいては、ラブブはまるで日常的な存在のように流通しているのである。


ラブブを知ったきっかけ(画像:フリューかわいい研究所「2025年上期のトレンドとかわいいの調査」より)

 実際に、プリントシール機メーカーのフリューが10〜20代の女性を対象に実施した調査によると、ラブブを知るきっかけになったのはTikTokやInstagramからという人が多い。

 しかし、その“可視化された人気”に反して、実際に手に取ることができる機会はほとんどない。日常の中でラブブを見かけることはまれで、SNS上の熱狂はむしろ現実とのギャップを際立たせている。

 つまり、ラブブは「誰もが知っているのに、ほとんどの人が持っていない」存在になったのだ。読者の皆さんも日々の生活を思い出してほしい。このラブブと呼ばれる人形を身近で所有している人を思い浮かべることができただろうか? この原稿を書くにあたり、筆者自身この1週間ラブブを意識して生活を送ったのだが、ラブブを身に着けて歩いている人を見かけることはなかった。

 画面の中では身近に感じられるが、現実の世界では遠い。この不均衡が一般消費者にとっての“手に入らないトレンド”という感覚を生み出している。その影で大量の偽物や“なんちゃってラブブ”が出回るようになった。

 中国本土では早くから模倣品がオンラインショップに並び、日本でも2024年頃からショッピングモールのクレーンゲームや祭りの屋台、ガチャガチャの景品などに、真贋不明のラブブが姿を見せ始めた。その多くが正規ライセンス外の商品である。日本では公式店舗や正規販売ルートが限られているため、正規品を手に入れにくい消費者がメルカリをはじめとしたセカンダリーマーケットに流れ、その需要を狙うかたちで模造品が供給されるという構図が生まれた。

 実際にフリマサイト「SNKRDUNK」(スニーカーダンク)を運営するSODA社のレポートを見ると、2025年に入りラブブの流通量は着実に増加。7月にはスニダン上で取引数が急騰するなど市場が過熱する一方、偽造品の着荷数も同月には1月比約2.7倍に増加し、人気の高まりと偽造品流通の拡大には明確な相関が見られたそうだ。


偽物ラブブの出荷数も増加した。SODA社が公開した、本物のラブブと偽物のラブブ(画像:SODA「ラブブの偽造品流通に関する調査レポート」より)

 こうした構造は、子どもたちにも影響を及ぼした。TikTokやYouTubeショートでラブブを見かけた小学生たちは「かわいい」「欲しい」と声を上げる。けれど、正規ルートで購入するのは難しい。親の経済力や理解によって「買ってもらえる子」と「買ってもらえない子」の差が可視化されていった。

 さらに、都市部の百貨店やポップアップストアなど正規販売の機会がある地域と、そうでない地域との格差も浮き彫りになった。つまり、ラブブは単なるキャラクターではなく、大げさに言えば消費格差そのものを映し出す鏡になったと言える。

 本物を持つことがステータスになる一方、偽物を持つことで何とかブームに参加できる(通常偽物で満足するということはないだろうが……)。どちらにもアクセスできない人々は、SNSで他人のラブブを眺めながら「欲しい」という気持ちだけを更新し続ける。こうして、ラブブは希少性だけでなく、“可視化された欲望”によって価値を強化していった。

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