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「刈り取り型営業」が正義だった過去も ダイドーが営業変革を成功できたワケ【前編】徹底リサーチ! ダイドーグループHDの人的資本経営(2/2 ページ)

かつては変化への抵抗感も強く、営業現場を中心に“過去の成功体験”が変革の壁となっていたダイドーグループホールディングス。変化を一過性のものとせず、制度と風土の両輪で取り組みを継続してきたその背景には、どんな仕組みと思いがあったのか。

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過去の成功体験が“変革の壁”になる

奈良: 「挑戦を促す文化」というのは簡単に言えますが、実際には現場の納得感を得るのが難しい部分だと思います。特に、組織全体で新しい取り組みを浸透させる際にはさまざまな壁に直面しますよね。個人的には特に、営業の分野などで、過去の成功体験が“変革の壁”になることが多いイメージがあって。

高松: まさにその通りです。営業改革は今も続けている大きなテーマの一つですが、特に難しかったのは長年、短期決戦の「刈り取り型営業」で成果を上げてきたベテラン層に変化を促すことでした。

 彼らにとっては「刈り取り型営業」こそが成果を出す手法であり、それを「課題解決型営業」に変えようとしても、「今のままで成果が出ているのに、なぜ変える必要があるのか?」と強い反発がありました。

 そこで社内で何度も研修を実施し「なぜ変わらなければいけないのか」「お客さまとの関係性がどう変わっているのか」を丁寧に説明してきました。しかし、それでも「これって本当に社長がやろうとしていることですか?」と疑問をぶつけられることも多く、初期は特に苦労しましたね。

 ただ根気強く「新しいやり方にチャレンジしていこう」と伝え続け、営業スタイルを少しずつ変え実績を積み重ねることで、現在では「顧客志向営業」がしっかり浸透しています。

 また、「言われたことだけをやる」「やってはいけない」といった縛りではなく、「チャレンジして失敗してもいい」というメッセージを繰り返し伝えてきたことが、営業担当者の発想から生まれたユニークな自販機の導入にもつながりました。

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ダイドーグループホールディングス代表取締役社長の高松富也氏(※「高」は「はしごだか」)(写真:葛西龍)

奈良: 変革を進める中で、どのような社員層にどう働きかけるかも重要ですよね。

高松: よく「2-6-2の法則」の話をしていました。つまり、何を言わなくても前向きに動く人が2割、どんな取り組みにも懐疑的な人が2割、そしてその間の“どちらにも転び得る”中間層が6割。この6割の人たちにどう響かせるかが、文化を動かす鍵だと感じていました。

 そこで取り組んだのが「成功事例の可視化」です。アワードなどを通じて、「こういうことにチャレンジしたら評価されるんだ」「会社にちゃんと貢献できるんだ」という事例を積極的に社内に発信しました。それを見た中間層が「じゃあ自分も」と少しずつ行動を変えてくれる。この変化の連鎖を意識していました。

「継続」と「変化」を両立させる文化づくり

奈良: そのような取り組みを継続していく中で、制度が形骸化せず、今も機能し続けている背景には、運営体制の工夫も大きな役割を果たしているのではないでしょうか?

高松: そうですね。アワードの主管部門は人事総務部ですが、実際には経営戦略部門やコーポレートシミュレーション部門など、さまざまな管理系部門が横断的に関わっています。みんな「余計な仕事」と冗談を言いながらも(笑)、毎年しっかりと運営を続けています。

 さらに地域ごとにアワードスタッフを配置し、エリアや部署ごとに活動を広げ、推薦や提案の取りまとめを担ってもらっています。こうした取り組みが号令や命令ではなく、自然発生的に広がったことが大きいと思います。今では恒例行事のように、多くの関係者が自発的に動いてくれる体制ができあがっています。

 こうした運営体制は、単なるトップダウンではなく、現場の理解や共感を基盤としているため、制度が一過性のものにならず社内に根付く土台となっています。

奈良: 当初の制度が形骸化せずに続いているだけでなく、自然と質も規模も大きくなっているんですね。かなり難しいことだと思うのですが、どのように継続と変化を実現してきたのでしょうか?

高松: 継続することが文化醸成の基盤であることは間違いありません。しかし、続けるだけでは停滞してしまいます。時代や組織の変化に応じて、制度の内容を改善し続けることも同じくらい重要です。

 私自身もここ数年営業の現場から離れていましたが、その間に一部でチャレンジ意欲の低下など、逆戻りの兆しも見られました。文化や風土は繊細で、一度根付いたものも継続的な働きかけがないと簡単に薄れてしまうのです。

 だからこそ、トップが常に「チャレンジし続けよう」というメッセージを示し続けること、そして制度自体も時代に合わせて少しずつ刷新しながら、継続と変化のバランスを保つことが非常に大切だと改めて痛感しています。

奈良: 人的資本経営のような仕組みや“型”も重要ですが、実際に社員の行動変容を促すこうした地道な努力が文化を作るのですね。

高松: まさにそうです。チャレンジ制度は続けてやっと定着しましたが、同じことの繰り返しだけでは社員にとって義務化してしまい、息苦しくなる恐れがあります。

 だからこそ、制度運営においては「継続」と「変化」を繰り返しながら、社員の声を反映させ、環境の変化に柔軟に対応していくことが欠かせません。

 また、制度の枠を超えて現場同士の対話や成功事例の共有を促すことも重要です。これにより、制度が形骸化せず、社員一人一人が自らの意思でチャレンジしたくなる文化を醸成していくことができると考えています。


 10月23日公開の中編「DXを『やらされ仕事』にしない ダイドー流『自走する組織』の作り方」では、挑戦の文化を築き社員の自発性が向上したことで、現場でDXやダイバーシティーの取り組みが主体的に推進されている状況を紹介します。

著者プロフィール

奈良和正 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

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2016年にWorks Human Intelligenceの前身であるワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。

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