生成AIは「新人の敵」に!? 現場でもうすぐ起きる3つの苦悩(1/4 ページ)
生成AIの普及により業務のアウトプットや効率が劇的に向上している。AIの力でスキルや経験値が浅い社員であっても高い成果を出し得るという見方がある一方、新人教育の現場からは、生成AIの普及によるリスクを危惧する声も聞こえてくる。果たして生成AIは新人の成長にとって追い風なのか、逆風なのか?
生成AIの普及により業務のアウトプットや効率が劇的に向上している。
Harvard Business Schoolが、米Boston Consulting Group(BCG)のコンサルタント758人を対象に実施した調査によると、AIが得意とする業務においてChat GPTを利用したコンサルタントは、利用しなかったコンサルタントと比べてタスクの完了速度が25%、成果の品質は40%向上。さらに、AIによる成果の向上度をスキルレベル別に見ると、高スキルのコンサルタントが17%増加したのに対して、平均レベルのコンサルタントは43%増加した。
このように、AIの力でスキルや経験値が浅い社員であっても高い成果を出し得るという見方がある一方、新人教育の現場からは、生成AIの普及によるリスクを危惧する声も聞こえてくる。果たして生成AIは新人の成長にとって追い風なのか、逆風なのか? 最先端AI企業の新人教育の現場で起きている3人の事例から、生成AIが新人教育にもたらす影響を考察する。
AI時代に新人が陥りがちな3パターン
CaseA:生成AIでツールを量産する新人「忘れられがちな目的思考」
山崎広大さん(仮名)は、担当業務に合わせて生成AIを使いこなし、業務効率化ツールを次々と自作。データ整理や報告書の自動化、Slack連携botなど、どれも手早く仕上げ、チームからは「助かる」「仕事が早い」と重宝されていた。そんな山崎さんが次に着手したのは、社内共有フォルダに毎週アップされる報告書の効率化ツール。 「報告書作成の手間をゼロにしたい」と意気込み、生成AIを活用し試行錯誤の上、ツールの作成に成功した。
ところがリリース直後、上司が尋ねた。「この報告書って、どういう目的で作っているんだっけ? あと、今どのぐらいの人が見ているのかな?」
調べてみると、その報告書は、5年前に別部署から引き継がれた業務だったが、今は誰も開いていなかったことが判明。最新のダッシュボードで同じ情報がリアルタイムに共有されており、報告書は完全に形骸化していた。山崎さんは業務を効率化しているつもりだったが、実は“不要な仕事の効率化”のために労力を割いてしまっていたのだ。
CaseB:生成AIの出力を鵜呑みにしてしまう新人「AIの出力にすぐ飛びつく」
新規事業のマーケティング担当として入社した鈴木遼さん(仮名)。上司から「Z世代に刺さるサービスのトレンド分析をしてほしい」と依頼を受け、1週間後に会議でその成果を報告することになった。会議に向け、鈴木さんは生成AIを活用し「Z世代が今注目しているサービス10選」を作成。生成されたアウトプットをみて、「これならいけそうだ」と鈴木さんは安心した。
会議当日、AIの出力をもとに作成した資料を説明し終えた鈴木さんに、上司が尋ねた。「この10個の選定基準は? “刺さる”はどういう定義を置いた? 」。鈴木さんは言葉に詰まった。本来なら、調査の前に評価軸を設計すべきだったが、いきなりAIに丸投げしてしまったため、自分なりの考察が全くできていなかった。
上司としては「Z世代に刺さる」という抽象的なテーマをあえて伝え、鈴木さんが「どんな評価軸の仮説を立てたか」を聞くことを会議の最大の目的と考えていた。評価軸を共有せずに、アウトプットについて議論できない。だが、鈴木さんには“土台となる思考”が抜け落ちていたため、議論のスタート地点にすら立てなかった。結局、会議は本来の目的を全く果たせないまま終えることになった。
Case:AIとの競争にさらされる新人:「AIに詳しいが故の存在不安」
AIスタートアップに入社した白石美羽さん(仮名)は、学生時代からAIの研究コミュニティーに参加し、論文や新ツールのアップデートにも常に目を光らせていた。その知識量は群を抜いており、社内でも「一番AIに詳しい新人」と評される。
だがある日、1on1で彼女はメンターにこう漏らした。「AIの進化スピードがすごすぎて、自分はすぐにAIに追い越されてしまいそうな気がして焦っています。自分がAIに勝てる要素って何なんだろう、と悩んでいます」
まだ社会人経験が浅く“勘所”や“判断軸”が固まっていない中で、AIが瞬時に正しそうな答えを提示してくれる。すると、自分の思考のどこを疑い、どこを深掘りすべきか、その感覚が育ちづらくなる。AIに詳しいからこそ、AIに“負けていくプロセス”をリアルタイムで感じる。これまで、新人は同期社員と競争してきたが、生成AI時代の新人は「AIの進化との競争」にもさらされている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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