生成AIは「新人の敵」に!? 現場でもうすぐ起きる3つの苦悩(4/4 ページ)
生成AIの普及により業務のアウトプットや効率が劇的に向上している。AIの力でスキルや経験値が浅い社員であっても高い成果を出し得るという見方がある一方、新人教育の現場からは、生成AIの普及によるリスクを危惧する声も聞こえてくる。果たして生成AIは新人の成長にとって追い風なのか、逆風なのか?
変化する新人の競争相手
米国では既に、生成AIの影響を受けやすい一部の職種において、特に若年層の雇用の置き換えられはじめている。スタンフォード大学が、米国最大級の給与処理企業ADP(Automatic Data Processing)の2500万人超の給与データ(2021年1月〜2025年7月)を用いて実施した分析によると、生成AIの影響を受けやすい職種における22〜25歳の雇用は、2022年末から2025年7月にかけて約6%減少。同じ職種で35〜49歳はむしろ6〜9%増加していた。
また、米国のZ世代とミレニアル世代約1000人を対象にした調査によると、Z世代とミレニアル世代の47%が、職がAIに置き換わる不安を抱えており、また約半数が「どれだけAIで仕事を進めているかを上司に言うのが不安」と回答している。
日本でも、新人に話を聞いてみると、AIについて情報収集している人であればあるほど、AIの進化スピードを目の当たりにして、自分の仕事がAIに置き換わってしまうのではという不安を口にする。これまで、新人の競争相手は隣の席が一般的だったが、今の新人は「AIとの競争」も感じているのだ。
生成AI時代の新人育成戦略とは?
生成AIを活用して早期から高い成果を出せる可能性が高まる一方で、AIに思考のプロセスを委ねすぎれば、「なぜそう考えたのか」「どう意味付けたのか」という成長の核が失われていく。
本稿で見たように、生成AI時代の新人たちは
(1)問いを立てられない(=イシュー設定力の欠如)
(2)思考が見えない(=ブラックボックス化)
(3)自分を俯瞰できない(=メタ認知の欠如)
という課題に直面している。こうした課題に対し、企業はどのような新人育成戦略をとるべきなのか? 参考になるのが「Automation」(オートメーション、自動化)と「Augmentation」(オーグメンテーション、拡張)という二つの視点だ。
Automationは、人間の作業をAIが代替し、効率化やスピード向上を目的とするアプローチである。一方のAugmentationは、AIを人の思考や判断を支援する存在として位置付け、人間の拡張することを意図するアプローチである。
本稿で見てきた新人教育の課題は、生成AIの活用において「Automation」しか意識できず、「Augmentation」の観点での活用ができていないことが背景にある。次回の後編では、この「拡張としてのAI活用」を軸に、生成AI時代における新人育成の課題に対して、企業が具体的にどのような対策をしていくべきかを考察し、具体的なアプローチを紹介する。
著者プロフィール・村上悠太(むらかみゆうた)
株式会社ディープコア 経営企画部 Director, HR Business Partner
ソフトバンクで採用・人事企画を経て、2018年よりディープコアに参画。同社の人事全般を統括しつつ、投資先AIスタートアップの採用・組織開発などのHR支援を推進。2023年にスタートアップキャリアコミュニティー「LINKS by KERNEL」を設立し、約500人の会員にキャリア支援を提供。起業家やスタートアップ参画希望者へコーチングなどの支援を行う。スタートアップや大企業の新規事業部門を主な対象に、組織開発・チームビルディングの講演・研修・ワークショップを実施。経営層から新入社員まで幅広い対象を支援。
BCS認定ビジネスコーチ、米国Gallup社認定ストレングスコーチ
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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