東京の丸の内? それとも郊外? 金融界で働く人の住まいを地図で見る:データでわかる東京格差(1/3 ページ)
金融・保険業の事業所は、東京駅周辺に集中している。従業者はどこに住んでいるのか。
この記事は、にゃんこそばの書籍『データでわかる東京格差』(SBクリエイティブ)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
前回、IT人材はどこに住んでいるのかを紹介しました。今回は、IT産業と対比する形で、金融業・保険業の分布を見てみましょう(図4)。
総務省統計局「令和3年(2021年)経済センサス」によると、東京23区内に銀行業の事業所は約1200カ所で、従業者は約10万人。保険業の事業所は約4300カ所で、従業者は約15万人。その他、金融商品取引業・商品先物取引業、クレジットカード会社、労働金庫・信用金庫などを合わせて1万事業所、40万人という大きな労働市場を形成しています。
地図を見て気づくのが、先ほどのIT産業と比べて、金融系の事業所が東京駅周辺(大手町・丸の内・日本橋)に「強く」集中していること。新宿、渋谷などの副都心は、街全体の規模と比べて、金融関係のオフィスが少なめです。どうしてこうなったのでしょうか?
その答えは歴史にあります。IT産業の立地がビジネスの合理性によって決まってきたのに対し、日本の金融街は、日本の近代化の歴史とともに歩んできました。
その核となったのが、現在の日本銀行や東京証券取引所が位置する日本橋エリアです。この場所は、江戸時代から金貨を扱う「金座」や、有力な両替商が集まる金融の中心地でした。大手百貨店・三越のルーツである呉服店「三井越後屋」も、17世紀末にこの地に「三井両替店」(現在の三井住友銀行)を開業しています。
その後、明治期に入ると、近代国家の礎を築くため、渋沢栄一らによって日本初の国立銀行・第一国立銀行(現在のみずほ銀行)が兜町に設立。さらに5年後には、東京株式取引所(現在の東京証券取引所)も開設され、兜町は名実ともに「日本のウォール街」としての地位を確立しました。
また、東京駅をはさんで西側の丸の内エリアでも、ロンドンの金融街をモデルに、赤レンガ造りのオフィスビルが並ぶ近代的なビジネス街が建設されました。この「一丁倫敦(いっちょうロンドン)」と呼ばれた街並みに、三菱系の銀行(現在の三菱UFJ銀行)や明治生命保険(現在の明治安田生命保険)などが次々と本社を構え、日本橋・兜町とともに発展を遂げていったのです。
1960年代以降、新宿に超高層ビルが林立する副都心が開発されても、この金融機能の一極集中は揺らぎませんでした。金融取引の根幹をなすのは「情報」と「信頼」であり、政府や中央銀行との物理的な近さと、同業者間で日々交わされる情報交換こそが競争力の源だったからです。
ちなみに、大阪では淀屋橋から本町にかけての地域、名古屋では伏見から栄にかけての地域に金融機関が集まっています(図5)。
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