KDDIも「フィジカルAI」に注力 副社長が語るDX事業戦略の展望:変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(2/2 ページ)
KDDIのDX推進を基盤としたビジネスプラットフォーム「WAKONX」(ワコンクロス)が開始してから1年半が経過した。桑原康明副社長のグループインタビューの内容から、WAKONXの展望を探る。
フィジカルAIに注力 その理由と強みは?
――2026年には大阪堺に新たなデータセンターを稼働させます。WAKONXを踏まえた活用のユースケースや戦略について教えてください。
「GB200 NVL72」をはじめとするNVIDIA製の最新世代GPUを搭載したサーバを備えているため、AIの学習や推論の最適化での利用を見込んでいます。ユースケースとしては、創薬などの医療研究領域では、モデル開発やゲノム解析などですね。その他、大量のトラックを処理する金融機関、気候変動や防災シミュレーション、ロボットの自律制御といった領域での研究開発も含めた利用を想定しています。
――データセンター事業は国内外さまざまな企業が展開しています。KDDIならではの強みや注力領域を聞かせください。
日本企業の強いところを支援していくことで差別化していきたい、と考えています。具体的には素材や部品メーカーも含めた製造業領域において、先のコネクティッドサービスにも関連しますが、これからますます工場内で稼働するロボットや搬送機器などが通信でつながることとなり、制御する必要が出てきます。
いわゆるミドルウェア的な領域になりますが、そこにフィジカルAIを入れ、各種機器を正確にコントロールしていく。その支援に寄与できると考えていますし、われわれだからこそできる、重要な役割でもあると思っています。
――今まさに高輪ゲートウェイシティで取り組んでいることを、工場に落とし込んでいくイメージでしょうか?
はい。先ほど紹介したように高輪ゲートウェイシティでもそうですが、建物が建つ以前からかなりの準備をし、光回線やローカル5Gが使えるような環境を整えてきました。工場で同じような準備が必要となってきます。
というのも、単にそれぞれの機器やロボットにAIを実装し、Wi-Fiやクラウドなどにつないで制御しようと思っても、工場の規模にもよりますが、大きいところではそれこそOSも通信環境も相当数ありますからお互いが干渉しあい、思ったように制御できない場合が少なくありません。
正直、かなりハイレベルな技術や知見が求められます。われわれはこのような通信制御をこれまで長きにわたり取り組んできましたから、技術はもちろん経験や知識も豊富にある。通信事業者だからこそできる、スムーズで精緻なフィジカルAIを提供できると自負しています。
世界中にKDDIのデータセンター網を広げていく
――データセンター事業の今後の戦略についてはいかがでしょう。
現在、国内外45の拠点でデータセンターを展開していますが、今後もさらに増やしていく予定です。海外では新たに12カ国に進出していく計画で、東南アジアならびに欧州に重きを置いています。
中でも意識しているのが、今後クラウドの需要が増すと考えられるエマージング・マーケットです。例えばフランスでは、すでにいくつかの拠点にデータセンターを構えていますが、今後はパリやマルセイユへの展開を計画していて、マルセイユではすでに土地を確保しています。
マルセイユは地中海を挟んでアフリカとつながりますから、アフリカ向けのトラフィックなどを、パリ、マルセイユを経由して展開していく。そのような流れをイメージしています。
また海外ではわれわれ単独というよりも、他の事業者、例えばAmazon Web Services(AWS)さんと一緒に進出することで、接続性が一気に高まることを意識しながら進めています。
もちろん国内にもおいてもさらに積極的に増やしていく計画があり、国内では先に紹介したようにフィジカルAIでの強みを出していく観点から、AIデータセンターとして展開していく予定です。
アカウントはすでに40万超 中小企業まで使えるDXプラットフォーム
――DXブランドとしてのWAKONXの特徴や強みを教えてください。
大企業向けに開発したサービス、特にIPと呼ばれる知財を組み込むこと。そのIPをいわゆる月額の料金体系で提供できるのが、WAKONXの付加価値であり強み、特徴でもあると考えています。
ConnectINはいい例で、できるだけそのままのパッケージで、大企業であってもカスタマイズは少なく、中小企業はまさにそのまま使うことができる。大企業向けに作られたシステムやサービスを、月額のリーズナブルな料金で使えるようなイメージです。
実際、このような特徴はマーケットからも評価されていて、登録アカウントの数はすでに40万以上です。中小、中堅のお客さまによりお使いいただきたいという思いから、専用のチャネルも設けています。今後ますます中小・中堅のお客さまがコストをかけずにDXを推進していけるような、さまざまなサービスを展開していこうと考えています。
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