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AIは思考力を奪うのか? ベネッセが葛藤の末に見つけた答え(2/2 ページ)

大人が子どもたちに正しい活用のお手本を示さなければならない教育の現場は、AIとの向き合い方が最も難しい領域の一つだろう。「AIは考える力を奪うのではないか」という議論もあるが、ベネッセはどう向き合っているのか。

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AIは「考える力」を奪うのではないか サービス設計で重視した3つのポイント

 ベネッセグループがAIのサービスを最初にリリースしたのは、2023年7月。小学生親子向け「自由研究お助けAI」だった。当時、教育業界では「AIは考える力を奪うのではないか」という議論が活発になっていたことから、サービス設計においては、次の3つのポイントを重視した。

(1)答えを教えるのではなく、考える力を養うAIキャラクターによるナビゲーション

(2)小学生の利用に配慮した安心・安全な設計

(3)生成AIの使い方、ルールといった情報リテラシーを学ぶための動画解説

 このコンセプトに沿って、保護者による利用承認を必須とした。また、実際にAIキャラクターとやりとりを始める前に、有識者が監修した「使い方の5か条」で情報リテラシーを身につけられるようにした。

 「私たちがやりたかったのは、子どもたちに“考えるプロセス”を教えること。そのためAIには、考えるヒントやアイデアを提示する役割を与えた」と國吉氏は振り返る。

 この取り組みを通じて、「読書感想文を書いて」といった“AIでやるべきではないこと”を、ただ「できません」と断るのではなく、「おもしろい作品だから、ぜひ読んでみて」と子どもたちの意欲を刺激することができれば、教育サービスとしての新たな価値を発揮できることに気付いたという。

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「自由研究お助けAI」(ベネッセコーポレーションのプレスリリースより)

 続いて2024年3月にリリースしたのが「チャレンジAI学習コーチ」だ。ベネッセグループの指導ノウハウ・コンテンツと生成AIを組み合わせ、教科質問と学習法相談ができるサービスである。この開発にはRAG(検索拡張生成)の技術が活用された。

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「チャレンジ AI学習コーチ」(ベネッセコーポレーションのプレスリリースより)

 「チャレンジAI学習コーチ」では、質問内容を「教科」と「やる気勉強法」の2種類から選択できる。いずれもAIキャラクターが回答しているように見えるが、実は「教科」に関する問いには、AIが直接回答していないという。子どもたちが入力した質問をAIが解釈して最適な検索クエリを生成するが、正確性を担保するため、回答はあらかじめ用意されたコンテンツを提示する仕組みを採用した。

 他方、「勉強のやる気が出ない」「集中力が続かない」といった相談には、明確な正解が存在せず、ハルシネーションのリスクが低い。そのため「やる気勉強法」では、回答の生成にもAIを活用して、子どもたちの気持ちに寄り添ったメッセージを返せるようにしたという。

AI時代に求められる「問いを持ってAI活用を実践する力」

 國吉氏は、「AI技術の進化にともない、さらに重要になるのは、AIを生かす“人の力”だ」と強調する。國吉氏が所属するGenerative AI Japan(産官学で生成AI活用を促進する団体)では、“問いを持ってAI活用を実践する力”を意味する造語「Questivity」(クエスティビティ)を提唱しているという。最後に使うのは人だからこそ、AIに“正解”を委ねず、人が問いを持ちながら使いこなすことが重要なのだ。

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ベネッセコーポレーション データソリューション部國吉啓介部長(提供:Sansan)

 2024年以降、AI活用のトレンドは、テキスト・画像・音声・動画・センサー情報など、複数の異なる種類のデータを統合して処理する「マルチモーダル」から、AIが自律的にタスクを実行する「AIエージェント」や、さらに複数のエージェントが連携して協調しながらタスクを実行する「マルチAIエージェント」へと移行しつつある。

 ここで言う“自律的”とは、どういうことなのか。本来の意味は「自分で考えて判断・行動すること」だが、AIが独立した意思を持つわけではない。

 従来の生成AIは、人間が入力した情報に対して結果を返す、「入力→処理→出力」を行う単発的な装置にとどまっていた。これに対しAIエージェントは、人間が設定した目的を達成するために、タスクを細分化し、連携するシステムやツールから必要な情報を収集しながら、「思考→実行→観察」を繰り返す。この一連の流れは、AI研究で古くから“推論”と呼ばれてきたものであり、推論をどう設計し、制御できるかが、AI活用の肝になるというわけだ。

 最後に、國吉氏は「これからの時代、価値ある問いを立て、前進する力が、極めて重要になってくる。技術が進化し続ける分、変化を前提に人も学び続けなければならない」と語った。

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