AIは思考力を奪うのか? ベネッセが葛藤の末に見つけた答え(1/2 ページ)
大人が子どもたちに正しい活用のお手本を示さなければならない教育の現場は、AIとの向き合い方が最も難しい領域の一つだろう。「AIは考える力を奪うのではないか」という議論もあるが、ベネッセはどう向き合っているのか。
生成AI活用の幅が加速度的に広がる一方で、「本当にこれが自社や顧客にとって最も価値をもたらす方法なのか?」という疑念を払拭できずにいる企業は少なくない。
とりわけ、大人が子どもたちに正しい活用のお手本を示さなければならない教育の現場は、AIとの向き合い方が最も難しい領域の一つだろう。慎重になりすぎれば時代から取り残され、性急になりすぎれば子どもたちの思考力を奪いかねない。
このような葛藤にベネッセコーポレーションはどう対峙したのか。
Sansanが提供する個人向け名刺サービスEightが主催した「AI-PAX 2025 第1回 AIの実践的な活用展」に登壇した、ベネッセコーポレーション データソリューション部國吉啓介部長の講演「ベネッセの事例から考える、AI活用の実践的な価値とは」の内容をもとに、AIを活用した事業開発の裏側に迫る。
AIの構造は、人間の思考回路と同じ 押さえるべき“基本”の知識
AI時代の今、LLM、ChatGPT、RAG、エージェントなど、短期間の間に次々と新たなワードが飛び出し、その本質を見失いそうになる。「だが、焦る必要はない。結局、全ての根底に通じるのは“推論(=既知の事柄をもとに未知の事柄を導出すること)”である」と國吉氏は指摘し、次のようにAIの歴史を振り返った。
まず1960年代に第一次人工知能ブームが到来。このときの中心技術は「推論」と「自然言語処理」であり、ルールが決まっている課題に対して回答することが可能となった。だが、当時のコンピュータの性能には限界があり、単純な問題にしか適応できなかったことから、冬の時代へ突入する。
次に、1980年代、第二次人工知能ブームが到来。このときの中心技術は「知識表現」だった。さまざまな知識やノウハウをルールとして登録し、活用する“エキスパートシステム”が登場した。しかし、膨大な登録作業の負荷やルール化の困難さにより、活用範囲は限定的となり、再び冬の時代へ突入することになる。
そして2000年代に入り、第三次人工知能ブームが到来。ビッグデータに機械学習を組み合わせることで、AI自身でパターンを学習することが可能になった。深層学習により、実社会での適用範囲が現在も拡大中であり、生成AIの隆盛とともに第四次人工知能ブームに入っているという声も上がっている。
では、これからのAIは、どこへ向かうのか。國吉氏は日本政府が打ち出した国家ビジョン「Society 5.0」(超スマート社会)を引き合いに出し、AIが現実社会にどのように作用していくかを説明した。
Society 5.0とは、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を指す。
「サイバー空間=デジタル、フィジカル空間=リアル」と置き換えれば、デジタルで取得したデータをAIが処理して、リアルにも作用するシステムが考えられる。例えば自動運転車両の場合、センサーで取得したデータをもとに、AIが危険だと判断した瞬間に、物理的にブレーキがかかるイメージだ。このように、Society 5.0の実現において、AIはその中核を担う技術となるのだ。
AIを得体(えたい)の知れないブラックボックスのような存在だと捉えている人は少なくない。技術が進化するほど、AIが人間を超えるのではないかという漠然とした不安も広がっている。
だが、國吉氏はこう指摘する。「AIの構造は、人間の思考回路と同じ。AIは『入力→処理→出力』というプロセスを通じて価値を生み出すのに対し、人間もまた『状況を観察して情報を取得し(=入力)、何をすべきか考え(=処理)、行動に移す(=出力)』という同じ構造で価値を生み出している。この基本を押さえておくことが、AIの社会実装を考えるうえで、大きな手がかりとなる」
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