トップが動く企業は強い 日清食品とサイバーエージェントに学ぶ、“AI人材育成”の勝ち筋とは?(2/2 ページ)
「AIをどう使うか」だけでなく「AIを使いこなせる人材をどう育成するか」が企業の競争力を左右する時代になっている。この記事ではAI人材の育成を推進する日清食品ホールディングス(HD)とサイバーエージェントの事例から、そのヒントを探る。
必要な学習を必要な人に届けるサイバーエージェント
続いて、サイバーエージェントの事例である。同社では「生成AI徹底理解リスキリング」と題し、2023年11月より全社的なAI人材育成を強化してきた。その取り組みは、「for Everyone」「for Developers」「for ML/DS」の3階層で進められている。
生成AI徹底理解リスキリング for Everyone
2023年10〜12月にかけて、全社員を対象に、生成AIによる業務効率化や新規事業の着想を得られる状態を目指すeラーニング形式のプログラムを展開。役員全員とグループ社員6247人のうち99.6%が受講を完了した。社内での推進施策として、全役員を対象に管轄ごとの受講状況をランキング化。役員自身の受講状況やテストの合格状況も可視化した。
生成AI徹底理解リスキリング for Developers
2024年2〜4月にかけて、エンジニア152人を対象に、LLMの活用や自社プロダクトへの組み込みができる状態を目指すeラーニング形式のプログラムを展開。
生成AI徹底理解リスキリング for ML/DS
2024年7〜9月にかけて、30人の機械学習エンジニアおよびデータサイエンティストを対象に、各事業やプロダクト特有の課題を、LLM(大規模言語モデル)の構築やチューニングによって解決できるプロフェッショナル人材を育成するためのオリジナルプログラムを展開。
エンジニア職向けの取り組みは2025年度も継続して行われ、延べ1000人超が受講したという。
「サイバーエージェントの取り組みには、“社員同士で自発的に学び、成果を積極的に共有する”というオープンでリベラルな同社の社風が色濃く表れている。社員の学習を促すうえで大切なのは、『健全なエンターテインメント性』をもってみんなで楽しく取り組むこと。無理せずに参加したくなる環境づくりが肝となる」(吉田氏)
「AI人材育成」成功する企業の5つの共通点とは?
AIに限らず、どんなテクノロジーでも、「導入したものの、あまり活用されない」「学んでも、実務で活用できる機会がない」「現場任せにしたら、思っていた方向と違う活用になってしまった」といった悩みが生じやすい。
吉田氏は、日頃、多くの企業からAI活用にまつわる相談を受けるなかで、AI活用に成功している企業には、次の5つの共通点があると分析する。
(1)単なる技術導入と捉えるのではなく、「戦略」と「カルチャー」の両輪で下支えしている。
(2)トップのメッセージやコミットメントが明確。経営層が自らAIを触り、リスクと効果を理解したうえで、「ここまでなら使っていい」といった方針を示し、業務で活用できる環境を整えている。
(3)小さく始めて、成果を共有しながら、成功体験を積み上げている。
(4)現場を巻き込んだ「学びの仕組み」がある。
(5)AI活用を人材育成の制度や研修と連動させて、全社的に推進している。
ここで気になるのは、もしトップがAIに対して及び腰だった場合に、いかにコミットメントを取り付ければよいのか、という点だ。安達氏は「なかなか上の立場の人に向かって『AIを勉強してくださいよ』とは言いづらい。そんなときは、どうすれば?」と疑問を投げかけた。
対して吉田氏は「お恥ずかしい話だが、弊社も最初からうまく進んだわけではない。進研ゼミの赤ペン先生を見ても分かるように、弊社のビジネスモデルは紙に依存してきた部分は大きい。そのため、3年ほど前にデジタルイノベーショングループというエンジニアを集めた組織を立ち上げ、どの業務からAI活用を始められるかを現場と膝詰めで検討していった」と振り返る。
トップからの鶴の一声でAI活用を始められないのであれば、ボトムアップで現場が学習するところから始めるのが得策だろう。
「ある自動車会社では、『Udemy Business』のアカウントをただ付与するのではなく、同じテーマを学びたい人を2人以上集めさせてからアカウントを付与するようにしていた。これにより、学習を個人の努力だけに委ねるのではなく、互いの刺激が継続の原動力になる。ぜひこうした工夫も取り入れてもらえたら」(吉田氏)
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