トップが動く企業は強い 日清食品とサイバーエージェントに学ぶ、“AI人材育成”の勝ち筋とは?(1/2 ページ)
「AIをどう使うか」だけでなく「AIを使いこなせる人材をどう育成するか」が企業の競争力を左右する時代になっている。この記事ではAI人材の育成を推進する日清食品ホールディングス(HD)とサイバーエージェントの事例から、そのヒントを探る。
生成AIが急速に普及するなか、「AIをどう使うか」だけでなく「AIを使いこなせる人材をどう育成するか」が企業の競争力を左右する時代になっている。社員の自主性に委ねていたら、“デジタル・ディバイド”(インターネット時代の情報格差)ならぬ“AI・ディバイド”がどんどん広がる一方だ。
とはいえ、「誰に対して、どのような知識やスキルを、どのような方法で提供すべきか」という問いに対する最適解を、門外漢の人事担当者だけに模索させるのは厳しいものがある。
法人向けオンライン学習プラットフォーム「Udemy Business」を活用し、AI人材の育成を推進する日清食品ホールディングス(HD)とサイバーエージェントの事例から、そのヒントを探る。
本稿は、Sansanが提供する個人向け名刺サービスEightが主催した「AI-PAX(アイパックス)2025 第1回 AIの実践的な活用展」で行われたトークセッション、「AI人材育成の極意〜誰に、何を、どうやって?を一気に具体化〜」の内容をもとに、AI人材育成のあるべき姿を紹介する。
スピーカーはベネッセコーポレーション 社会人事業本部 ソリューション営業企画部 部長 吉田典行氏、モデレーターはワークワンダース株式会社代表取締役CEO 安達裕哉氏が務めた。
年間「3万時間超」の業務削減 日清食品の生成AI活用
AI人材の育成事例を紹介する前に、「Udemy Business」について簡単に触れておく。
米Udemy社が運営するC2C型のオンライン学習プラットフォーム「Udemy」。Udemyでは誰でも講座を公開できるのが特徴で、2025年3月時点で世界中の8.5万人以上の講師によって25万本以上の講座が公開されている。その中で特にユーザーから高評価を得ている講座を厳選し、定額制で学び放題の法人向けオンライン学習プラットフォームとして提供しているのが「Udemy Business」だ。
日本では、いずれもベネッセが独占的事業パートナーとなっており、2015年から「Udemy」を、2019年から「Udemy Business」の提供を始めている。
そんな「Udemy Business」を活用してAI人材育成に取り組む企業の一つが、日清食品HDだ。
CEOの安藤宏基氏が、2023年度の入社式の場で、ChatGPTを用いて「日清食品グループ入社式×創業者精神×プロ経営者×コアスキル」のキーワードで生成したメッセージを披露するとともに、「テクノロジーを賢く駆使することで短期間に多くの学びを得てほしい」とメッセージを発信した。
このように、トップが新しいテクノロジーを積極的に取り入れようとする姿勢は、新入社員の目に好意的に映る。また、入社式には役員も同席していたことから、全社への波及効果も絶大だったという。
日清食品HD専用のChatGPT環境を構築した後は、営業領域を対象としたプロジェクトを発足。全国の営業拠点からメンバーを選抜し、「2時間の研修→対象業務の洗い出し→効果算出・成果報告→プロンプトテンプレートの作成」を1カ月で完遂した。
営業の現場は社内業務に時間を取られ、純粋に顧客と向き合う時間が削られていたという。2022年度は社内業務に充てる時間が72%、顧客のために使う時間が28%だったが、これをAIなどのツールによって、1人あたり年間400時間の工数を削減し、顧客のために使う時間を50%にまで増加させることを目指した。
その後、マーケティングのほか、希望部署へと同様の取り組みをどんどん広げていった結果、2023年時点で年間削減時間は3万2591時間にまで拡大していった。
日清食品HDの事例を受け吉田氏は、AI活用が思うように進まない企業の傾向について、次のように言及した。
「特に、情報セキュリティ部門がDX推進を兼ねているような組織体制でAI活用を検討させると、リスク回避を優先し過ぎるあまり、長期間にわたる試験的導入から抜け出せないケースが少なくない。利用環境の整備と法制度への対応が並行して進む現在、企業として守るべき範囲を明確に定めたうえで活用を進めていくことが大切だ」
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