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渋谷区が挑んだ「問い合わせ改革」 区民満足度「5点中4.8点」を実現した“ナレッジDX”の全貌(1/3 ページ)

自治体に寄せられる問い合わせは、多様化・複雑化の一途をたどっている。限られたリソースの中での問い合わせ対応が、職員の大きな負担となっている自治体も少なくない。2024年1月から「デジタルコンタクトセンター」の構築を開始した渋谷区では、職員の負担軽減と区民サービスの向上をいかにして両立させているのか。

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 自治体に寄せられる問い合わせは、多様化・複雑化の一途をたどっている。通常業務と並行しながら、限られたリソースの中での問い合わせ対応が、職員の大きな業務負担となっている自治体も少なくない。

 こうした中、東京都渋谷区は2024年1月から「デジタルコンタクトセンター」の構築を本格的に開始した。その結果、コンタクトセンターの応答率は毎月80%以上を継続。その一方、区民満足度(5段階評価)は4.8点と高水準を記録している。

 渋谷区では、職員の負担軽減と区民サービスの向上をいかにして両立させているのか。同区広報コミュニケーション課の岡田輝幸氏、冨澤竜太氏に聞いた。


デジタルコンタクトセンターを構築した渋谷区では、職員の負担軽減と区民サービスの向上をいかにして両立させているのか。(左から)岡田輝幸氏、冨澤竜太氏(編集部撮影)

ゼロから築いた「ナレッジ型センター」 属人対応からの脱却に

 渋谷区では、デジタルコンタクトセンターの構築以前から、コンタクトセンター業務を外部事業者へ委託運用している。当時の様子を岡田氏が振り返る。

 「入電の70%以上が職員への取り次ぎでした。次に多いのが『役所は何時まで空いていますか』といった、Webサイトなどですぐに見つけられるようなお問い合わせでした」

 当時からオペレーター用の応対マニュアルやQ&Aは存在した。しかし、内容が充実しているとはいえず、「オペレーターの経験」によって回答の質が左右されてしまい、問い合わせの一次解決率が高くない状態が続いていたという。

 さらに、業務時間の大部分が問い合わせ対応に占められており、現状の対応方法に課題を感じてはいるものの、具体的な改善策にまで落とし込めていなかった。

 こうした状況を打開すべく、渋谷区は2024年1月から順次「デジタルコンタクトセンター」を構築。IVR(自動音声応答装置)の導入や、FAQサイトの更新、チャットbotやLINE相談窓口の導入、生成AIによる通話内容のテキストデータ化などで、段階的に運用の在り方を抜本的に見直していった。その中でも、特に力を入れて取り組んだのは、KCS(ナレッジ・センター・サービス)の導入、つまり「ナレッジの蓄積」だ。


渋谷区が構築したデジタルコンタクトセンター(パーソルビジネスプロセスデザインのプレスリリースより)

 「これまではオペレーターの属人的なスキルや経験に頼っている部分が大きかったのです。そのため、回答の時間や質に、“差”が生じていました。そこで、ナレッジを蓄積し、マニュアルやQ&Aを充実させることで、オペレーターのスキルや経験値に関係なくスムーズに回答できる仕組みを構築することにしたのです」(岡田氏)

 しかし、その滑り出しは順風ではなかった。これまでの運用からの抜本的な見直しにより、一時的にではあるが現場が混乱。担当課以外の課に電話を回してしまう「取次電話の転送ミス」などが発生してしまった。

 「区役所のある課からは『前のコンタクトセンターの体制の方が良かった』と、厳しい意見ももらいました」と、岡田氏は当時の様子を振り返る。現場の理解を得るため、コンタクトセンターでは地道な改善を繰り返した。

 職員には、コンタクトセンターの存在意義、つまりナレッジが蓄積され、これまで各課に転送していた問い合わせをセンターで完結できるようになれば、区役所全体の業務負担が減るのだということを、都度説明して回った。また、指摘内容を即座に反映させるための「指摘フォーム」を設けたり、担当課とコンタクトセンターの管理者を交えた打ち合わせを組んだりすることで、一つ一つ認識の齟齬を解消していった。

 このように、各課との信頼関係を築き上げながらナレッジを蓄積し、充実したQ&Aを作成していった。

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