SaaSの成長を止める「財務の壁」 月次決算業務「20日→3日」を実現した企業が語る、生き残りの条件とは?(1/2 ページ)
AIブームに沸く企業の裏で、財務部門が成長のボトルネックになっている。財務部門が戦略アドバイザーとしての役割を担うためには、これまでの作業に追われる業務状況の改善が不可欠となる。サブスクリプション管理プラットフォーム大手、米Zuoraは財務プロセスの見直しに取り組み、月次決算作業を20日から3日に短縮した。
AIブームに沸く企業の裏で、財務部門が成長のボトルネックになっている。サブスクリプション管理プラットフォーム大手、米Zuoraの最高会計責任者(CAO)マット・ドブソン氏は11月12日、東京でのイベントで、財務は単なる裏方ではなく、収益化戦略の設計者となるべきだと訴えた。
従量課金モデルが主流となり、多くの企業が自社サービスの価格設定に頭を悩ませる中、「できない理由」ではなく「実現する方法」を示せる財務部門こそが、企業の成長を左右する。
財務部門が戦略アドバイザーとしての役割を担うためには、これまでの作業に追われる業務状況の改善が不可欠となる。
月次決算に20日かかる企業は変化の速いAI時代を生き残れない――。Zuoraは財務プロセスの見直しに取り組み、月次決算作業を20日から3日に短縮した。
戦略を期待されながら、手作業に追われる矛盾──財務部門の苦しい現状
財務部門のトップに突きつけられた現実は厳しい。Zuoraが世界900人以上の財務リーダーを対象に行った調査によると、89%が「戦略的アドバイザーとしての役割を期待されている」と答えた。経営層は財務部門に、単なる数字の番人ではなく、ビジネスパートナーとしての貢献を期待している。
ところが実態はまったく追いついていない。同じ調査で74%が「今の社内システムでは、新しい料金プランに対応できない」と答えている。例えば提供するAI機能に従量課金を導入しようとしても、システムが対応できず、価格変更を断念したり、手作業で対応せざるを得なくなったりする。
さらにSaaS企業に限ると、全社が「手作業での処理が成長の足を引っ張っている」と回答した。Excelでの計算や部門間の調整に時間を取られ、本来やるべき戦略的な仕事に手が回らない。
AI時代の到来で、この矛盾は一層際立っている。生成AIを載せたサービスでは、定額課金から従量課金への移行が加速している。顧客がAI機能をどれだけ使ったか、どんな成果を得たかに応じて課金する仕組みだ。ところが多くの企業は、こうした価格設定を今のシステムで扱えない。
「私たちは『Oracle(ERP)で統合する』『すでにSalesforceがあるからそれで対応できる』という相談を受ける」とドブソン氏は語る。「しかし数カ月後、従量課金に対応できない、収益認識が監査を通らない、顧客が求める契約変更をサポートできないといった問題に直面する」
AI機能の開発は多くの企業ができる。しかし、それをきちんと収益化できる企業は少ない。財務部門がこの課題を解決できなければ、イノベーションが売り上げにつながらない。
では、この状況を打破するにはどうすればいいのか。Zuora自身の経験が、そのヒントを示している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「No」ばかりの財務部が成長を止める? 「価格設定」が複雑化するAI時代を勝ち抜く方法
財務は単なる裏方ではなく、収益化戦略の設計者となるべきだ。「できない理由」ではなく「実現する方法」を示せる財務部門こそが、企業の成長を左右する。
流入「80%減」 AI検索で大打撃を受けたHubSpotは、どうやって“未来の顧客”を取り戻した?
米HubSpotはAI検索の影響を大きく受け、ブログへのトラフィックが80%減少した。同社はどうやって“未来の顧客”を取り戻したのか。ヤミニ・ランガンCEOが語る。
米Google幹部を直撃 年間「5兆回超」の検索は、AIでどう変わるか?
Google検索は、年間5兆回以上も使われている。AIにより「検索」が日々大きく変化している中、プラットフォーマーであるGoogleは今の状況をどのように見ているのか、話を聞いた。
広告業界で急成長する3つのAI活用領域とは? 電通デジタルCAIOに聞く
多くの日本企業が生成AIを業務効率化のツールとして捉える中、電通デジタルは一歩先を歩んでいる。全社横断でAI活用を推進する「AI Native Twin」 という組織を立ち上げ、事業の中核にAIを組み込む。
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体
SMBC×SBIが、「Olive Infinite(オリーブ インフィニット)」というデジタル富裕層向けサービスを開始した。野村證券をはじめとする大手証券会社が切った「1億〜3億円層」に商機があるという。
GPT-5が大学院生なら、楽天のAIは高校生レベル? それでも挑む“日本語特化AI”の勝算
楽天では約3万人の社員のほとんどが、社内向けAI「Rakuten AI for Rakutenians」を日々活用。非エンジニアも含め社員自らがつくったAIツールは、日報・月報の作成や営業の育成プログラム、翻訳や開発のテスト自動化プログラムなど、すでにその数は2万を超えている。
