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価格モデルが崩壊するAI時代 日本のSaaS企業に求められる生き残り戦略とは?SaaS is Dead時代を勝ち抜く(1/2 ページ)

米Salesforceは3カ月ごとに価格モデルを変えている。AIの台頭により収益予測が困難になった。AI時代の価格戦略の勝ち筋とは──。

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 米Salesforceは3カ月ごとに価格モデルを変えている。従量課金、成果連動型、そして再びユーザー単位へ――。混乱の背景にあるのは人工知能(AI)だ。

 サブスクリプション管理大手の米Zuoraが世界の財務責任者900人超を対象に実施した調査では、95%が「AIの台頭により収益予測が困難になった」と回答した。安定性と予測可能性が売りだったサブスクリプション経済に、AIが激しい不確実性を持ち込んでいる。

 創業者のティエン・ツォ最高経営責任者(CEO)は東京で開いた顧客向けイベントで言い切った。「小手先の対応ではもはや吸収不可能だ」

サブスクビジネス、「予測可能」が最大の武器だった

 サブスクリプションビジネスの魅力は予測できることだった。一度きりの製品販売と違い、毎月・毎年の経常収益が見通せる。この安定性こそが、過去15年にわたって企業がこぞってサブスクモデルに転換してきた理由だ。

 ところがAIの登場で、この前提が崩れた。ツォ氏はこう話す。「顧客がAI機能をどれだけ使うか全く読めない。コスト構造も不透明だ。良いニュースは顧客がAI機能を気に入っていること。悪いニュースは、(顧客が)使いすぎて損失が出始めていることだ」

 問題は同時多発的に起きている。OpenAIなどのAI基盤プロバイダーへのコストが変動する。AIモデル自体が数カ月ごとに進化する。ツォ氏は言う。「6カ月後にAIがどうなっているか分からない」


(提供:Zuora)

 安定していたはずのグロスマージン(売上総利益率)が急速に縮小する企業が相次ぐ。「ようやくサブスクビジネスの予測可能性を理解したと思ったら、またしても不確実性の時代に戻ってしまった」。ツォ氏の言葉に、業界全体の戸惑いがにじむ。

企業を襲う多くの難題 価格変更にシステムが対応できない場合も

 では具体的に何が問題なのか。AI時代の収益化は、深刻な課題に同時に直面している。

 まず、先述した通りコスト構造が見えないこと。

 次に、自社商品・サービスの価値をどう測るかが難しい。「価格設定は製品の価値ではなく、顧客をどれだけ深く理解しているかの問題だ」。AI機能の場合、その価値を測ることが極めて難しい。AIが生み出したアウトプットに課金すべきなのか。人間の生産性が上がったことに対してなのか。AIは補助ツールなのか、主役なのか。境界線は曖昧(あいまい)だ。

 3つ目は、従量課金がもたらす新たな予測困難さだ。月額固定のサブスクから、使った分だけ払う従量課金モデルに移ると、顧客の使い方次第で月次収益が大きく変わる。ツォ氏は言う。「ようやく収益予測の方法を学んだのに、また分からなくなった」

 さらに厄介なのが営業担当者への報酬計算だ。サブスクなら契約時に年間収益が確定するため報酬も決まる。だが従量課金では「まだ発生していない消費量をどう見積もって営業に払うのか」。

 4つ目が最も深刻だ。既存システムが新しい価格体系に対応できない。調査では財務責任者の97%が「現行システムでは価格設定の複雑さに対応できない」と回答した。AI機能のあらゆる活動を測って従量課金の基礎データにする必要があるが、データの誤りは顧客の信頼を損なう。AIのコストと収益は既存の構造に新たな層としてのしかかり、収益化そのものを覆す。

 Salesforceの財務責任者は語ったという。「価格設定チームが3カ月ごとに方針を変えるので、どんな価格モデルも信用できない。いつでも対応できるよう準備するしかない」。確実性を求めるはずの財務部門が、不確実性との共存を迫られている。

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