空前の人手不足なのになぜ? 派遣会社の倒産が過去最多ペースで増えているワケ【社労士が解説】(1/3 ページ)
コロナ禍を乗り越えて、年々売り上げを延ばしている派遣業界ですが、一方で倒産も増えています。背景について、派遣業界に詳しい社会保険労務士が解説します。
派遣会社の倒産が増えています。9月8日に帝国データバンクが発表した「労働者派遣業の倒産動向」によると、1〜8月の倒産件数は59件(前年比55%増)。このままのペースで推移すれば、過去最多の90件前後に達する可能性があります。
派遣業界はコロナ禍を乗り越えて、年々売り上げを延ばしています。日本人材派遣協会によれば、2022年度の派遣事業売上高は8兆7646億円と前年度比で6.4%増えています。売上規模が増えている業界にもかかわらず、なぜ派遣会社の倒産が増えているのでしょうか? 派遣業界に詳しい社会保険労務士が解説します。
「不本意ながら派遣」が減った背景
派遣会社は自社に登録している人材を派遣先に派遣し、その対価として派遣料金を請求します。通常、派遣料金は派遣社員に支払う賃金より20%以上高く設定され、派遣料金と派遣社員に支払う賃金の差が、派遣会社の収益となります。「常用雇用型派遣」といって正社員を派遣している会社もありますが、ビジネスモデルは同様です。
製造業や飲食店のように一から商品を作るわけではないので、“ピンハネビジネス”などと揶揄(やゆ)する人もいます。実際は、派遣社員に支払う社会保険料や、仕事を受注するための営業社員の人件費が発生します。そのため、派遣料金と派遣社員に支払う給与の差額が、全て利益となるわけではありません。
派遣会社の倒産が増えた要因はさまざまですが、派遣という働き方を希望する人が減ったのが大きな要因だと言われています。筆者の顧問先には派遣会社も多いのですが、どの企業の担当者も口をそろえて「目下の最大の悩みは派遣社員の採用です」と話します。
派遣会社にとって、派遣先を開拓するのと同じくらい重要なのは、就業を希望する人の確保です。人をアサインできなければ派遣できないので、お客がきても在庫がなくて商売にならないのと同じ状況になります。
就職氷河期と言われる世代では、正社員を希望するも叶わず、派遣社員として働かなくてはいけない人が少なからずいたので、自然と人が集まりました。しかし、労働人口の減少により売り手市場になった今では、「不本意ながら派遣」という働き方を選ばなくてはいけない人は減少しています。日本人材派遣協会の調査によれば、2024年10〜12月期の派遣社員数は158万人で、前年同期から5万人減少しています。
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