「パーカーおじさん」はなぜ生まれた? ちょいワルおやじがビジネスシーンに与えた、無視できない影響:【2025年メガヒット記事】(5/5 ページ)
年末に「パーカーおじさん」が議論を呼んだ。ビジネスシーンでパーカーを着用することの是非を巡ってSNSで意見が飛び交ったが、そもそもなぜパーカーおじさんは生まれたのか。歴史や背景を探る。
パーカーは、種類が多岐にわたる点が特徴です。次の図表にあるように、シャツの上からジャケットの代わりに羽織れば、寒さも防げて着脱もしやすく、仕事場で重宝します。トレーナーではだらしなく見えてしまいますし、Tシャツ1枚を着こなすほど鍛えていない――そうした人からすれば、パーカーを羽織るだけで何となくまとまって見えるため、オフィスでパーカーを着る人が増えていったのでしょう。
まとめると、クールビズでオフィスカジュアルが進んだこと、LEONをきっかけにちょいワルおやじがもてはやされたこと。さらに、バリエーションがあって着用しやすいアイテムなこと。この3点が、パーカーおじさんが日本のオフィスに登場した背景だと推察しています。
パーカーおじさんの裏に、新たな市場がある
会社というタテ社会では、自由でラフなファッションを楽しむのは難しいと、日本では思われていました。各企業の社風や伝統もありますし、頭の堅い、年配の方もいたことでしょう。客商売ともなれば、なおさらです。
この点、服装を整えることが「相手に敬意を払うこと」であるのと同様に「自分らしく表現すること」となった現代は、「周囲の理解」と「相手を不愉快にさせないこと」という条件下でそれが許される時代になったともいえます。
周囲の理解では「その人らしい、その人のキャラクターに合ったファッションかどうか」が重要です。いつも真面目で、他と違ったことはしない人なのに、無理やり仕事をする際にパーカーを着て仕事を始めたら、周囲の理解を得られないどころか「何かあったのでは」と心配になるでしょう。また、歴史のある非常に堅い企業に対するプレゼンに、Tシャツと短パンで行ったら、取引先は「軽く見られている」と不愉快に感じるかもしれません。
以前、筆者は『店の風紀は乱れない? 相次ぐ身だしなみルール緩和の背景 きっかけとなった大手の施策とは』と題した記事で、さまざまな企業で髪型や髪色、ネイルや服装にいたるまで、身だしなみルールを一気に緩和していることに触れました。オフィスだけでなく、客商売の場でも、服装に対する価値観が変化しているのが実態です。カジュアル化は必ずしも風紀を乱すものではなく、個性を生かし、自由に気持ち良く働いてもらうために必要な変化ともいえます。
カジュアルビズの取り組みから新しいアイテムがビジネスシーンに登場し、新たな着こなしによって売れるものが増える一方で、ネクタイやスーツのように売れなくなっていくアイテムも出ることでしょう。これからはパーカーだけでなく、メンズ・ジュエリーや、グルーミング(髪・ヒゲ・身体などを清潔に手入れすること)用のグッズ、メンズ脱毛、靴やカバン、靴下など、ビジネスシーンのあらゆるアイテムが、ライフスタイルに合わせて変化していくはずです。ある意味では可能性は無限といえます。
40歳パーカーおじさんも、新しいマーケットの登場を意味する現象かもしれません。このような変化に今後も注目する必要があるのです。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。
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