料理酒の老舗が「女性向けリキュール」に挑戦するも、悲しいほど売れず……そこから学んだ「顧客視点」とは(1/4 ページ)
家庭用料理酒でトップシェアを誇るキング醸造が挑んだ女性向けリキュールは、わずか1年で販売終了。「客を見ていなかった」という痛烈な反省から生まれた「顧客視点」が、大ヒット商品を生み出すまで。
スーパーで日常的に購入する家庭用料理酒。そのトップクラスのシェアを誇るメーカーが、キング醸造(兵庫県稲美町)という会社であることはあまり知られていない。そして、同社が肝いりで送り出した女性向けリキュール「女王様のお気に入り」が、わずか1年で販売終了に追い込まれた“大失敗”は、さらに知られていないだろう。
「買ってくれるお客さまを見ていませんでした」。同商品の開発に携わった、キング醸造マーケティング本部の竹山慎一郎氏はこう振り返る。2011年にマーケティング本部が設された当初は、専門的な知識もないまま、新商品開発を手探りで進めていたのだ。
だが今、同社はフルーツリキュール「シャインマスカットのお酒」で大ヒットを飛ばしている。どのような試行錯誤の末に、人気ブランドの確立までこぎつけたのか。そこには手痛い失敗から得た「顧客視点」があった。
老舗料理酒メーカーの挑戦
キング醸造は「日の出みりん」というブランドを展開する、基礎調味料を主力としてきた老舗メーカーだ。その同社が酒類市場に本格的に進出した背景には、小売市場の大きな変化があった。
昭和後期から平成にかけて、酒の販売チャネルが酒屋からスーパーへと大きく移行する。キング醸造は既にスーパーへの販売ルートを持っていたため、その強みを生かして、平成初期に紙パックの経済酒(低価格帯の日本酒)に参入し、一定の成功を収めた。スーパーで酒を買う主婦層が重要視する「価格」や「重さ」を意識した商品展開が功を奏した結果だ。
この酒類事業をさらに拡大するため、同社は次の注力分野にリキュールを選んだ。リキュールは日本酒で獲得した売り場の近くで展開でき、充填設備などは既存の設備が使えるなど、短期間で商品化できる点が大きな魅力だったからだ。発酵などが不要で製造スパンが短いことも、トライアルアンドエラーを素早く回せる利点があった。
こうしてリキュール商品である「ゆず酒」「梅酒」などを投入していき、これらの商品も徐々に人気を獲得していった。そして迎えた2011年ごろ、同社の社長交代を機に、トップダウン型の経営からボトムアップ型へ転換することになる。
社内の新商品開発体制を強化すべく、マーケティング部署が新設されることになった。このとき、竹山氏が総務からマーケティング本部のマネジャーに抜てきされたというわけだ。
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