ワークライフバランス重視=仕事できないダメな人? なぜ日本だけ“長時間労働”が蘇るのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
高市首相の「働いて働いて……」発言、ある経営者による「ワークライフバランスって言ってるやつで優秀なやつ1人も見た事がない」という投稿など、「過重労働を美徳化」する言葉が注目されています。こういう人たちは「忙しい自慢」が大好物。忙しい人=できる人と勘違いしているのです。
睡眠は「最強のパフォーマンス投資」
世界では組織のリーダーたちが、睡眠を「コスト」ではなく「最強のパフォーマンス投資」と捉え、「睡眠革命」なるものが巻き起こったというのに、日本のリーダーたちは、いまだに「長時間労働」を求めているとは、情けないやら悲しいやら。「生産性を高めたければ、さっさと寝よう!」が世界のスタンダードです。
さらには「睡眠時間を削ってまで働くこと=睡眠不足が結果的に、個人や企業レベルにとどまらず、国家経済全体にも甚大な損失をもたらすことが複数の試算で示されています。
米RAND研究所が2016年にリリースした調査「Why sleep matters ― the economic costs of insufficient sleep A cross-country comparative analysis(なぜ睡眠が重要なのか。睡眠不足による経済コストの国際比較分析)」 ではこう指摘されています。
睡眠時間が6時間未満の日本にいる労働者が、7〜9時間の睡眠時間をとるようになれば、1380億ドル(約20兆円)の経済損失を防げる。
繰り返しますが、結果や成果を出したければ、「寝るのも仕事」です。管理職や経営層は「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」を社員に押し付けるのではなく、本当の意味でのワークライフバランスを実践できる環境を整えてください。そうした姿勢が、「仕事」「家庭」「健康」という幸せのボールを、回し続けられる社会につながるのです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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