「また休むの?」子育て社員に“絶対言えない本音”──周囲が苦しむサポート体制から脱せるか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
人に寄り添った“あたたかい制度”であるはずの「育児休暇制度」。しかし、現状はたくさんの人がしんどい思いをし、不機嫌になっている。こうした中、子育て社員と子育て社員をサポートする社員の「心の壁」を解決しようと、会社側が動き出した。
いつだったか、ある大手企業に勤める30代の女性が、こう嘆いたことがありました。
「いろいろな働き方を選べるのは、育児と仕事を両立してる社員だけ。私のような独身者は、男性と同じようなペースで働くしかない。それでいて『女だから』と、昇進レースから離脱させられるんです。国や会社の政策や制度で輝くのは、結婚、出産という昭和モデルで働いてる女性正社員だけなんですよ」
彼女と同じような「決して社内では言えない胸のうち」を明かしてくれる社員は、少なくありませんでした。
2013年には、作家・曽野綾子さんの「出産したら女性は会社をお辞めなさい」「結局、産休で抜けた人の仕事を職場のみんなでやりくりしてカバーする。そういう制度を利用する女性は自分本位で、自分の行動がどれほど他者に迷惑を掛けているか気付かない人」という、時代に逆行するような極端すぎる発言が物議を醸しました。
メディアでは批判的な意見が大半を占めましたが、現場の社員からは「よくぞ言ってくれた」との声も確かに聞かれました。絶対に誰にも言えない“本音”です。
その本音は解決されないまま次の世代に引き継がれています。最近では「子持ち様」という言葉が、子育てのためよく休んだり早退したりする社員を揶揄(やゆ)する言葉として使われています。
育休へのサポート制度も、“絆創膏”でしかない
本来、育児休暇制度は「人」に寄り添った“あたたかい制度”です。それにもかかわらず、たくさんの人がしんどい思いをし、不機嫌になっているのは悲しすぎます。こうした中、やっと、本当にやっと、子育て社員と子育て社員をサポートする社員の「心の壁」を解決しようと、会社側が動き出しました。
サッポロビールは、育休を1カ月以上取得した社員の役職や休業期間に応じた金額を、業務をカバーした社員のボーナスに上乗せする制度をスタート。係長クラスが1カ月休むと、約6万円をカバーした割合で同僚らで分ける想定で、業績によって金額は変動します。
タカラトミーは育休取得者が所属する部署の社員に、「応援手当」を出す制度を試験導入しました。金額は、休業者の給与をもとに算定します。
沖電気は1カ月以上の育休を取得した社員の業務をサポートした同僚に、最大10万円を支給。三井住友海上火災保険も、職場の規模に応じて最大10万円の一時金を支給していて、2024年4月までに約9000人の社員が受け取ったそうです。
KADOKAWAでは、連続28日以上の産休・育休・介護休を取得した社員が所属する部署の同僚に対し、一律で月2万円を支給する「産育休・介護休フォロー手当」を始めました。
国も負けてはいません。育休中の同僚をフォローした社員を支援するため、厚生労働省は2024年1月から資本金に応じて小売業では従業員数50人以下、サービス、卸売業では同100人以下の中小企業を対象に助成金を支給。2025年度からは全業種かつ、従業員300人以下の企業に対象を広げました。この制度を利用すれば、企業が同僚に支給する業務代替手当の4分の3を、国が負担することになります(月10万円が支給の上限)。
こうした動きが「当たり前」になれば、子育てをみんなの問題と考えられるようになり、あたたかい制度に不機嫌になる人は減ることでしょう。しかし、これらはあくまでも日本お得意の“絆創膏”制度でしかありません。育児休暇や介護休暇の制度のひずみから吹き出した血を絆創膏で止めているだけなので、新たなひずみが生じる可能性があります。
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