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仕様書だけが降ってきた――「自治体システム標準化」で現場の混乱を招いた“完成図なき改革”(3/6 ページ)

「自治体システム標準化」と「ガバメントクラウド移行」を巡り、自治体の現場では人手不足、想定外のコスト増、移行遅延、責任の所在の不明確さ――といった深刻な混乱が広がっている。CIO補佐官として、現場で取り組みに関わってきた筆者が「マネジメントの視点」から事業について考える。

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標準化で「主権」を取り戻すはずだったが……現場が直面した“想定外”

 続いてもう一つの話です。

 筆者は普段、自治体向けのソフトウェア・サービス開発などを手掛けているのですが、2020年11月に次のようなプレスリリースを出しました(「オープンソースによる自治体向け住民情報システムの開発に着手」)。

川口弘行合同会社(本社:東京都大田区、代表社員:川口弘行)は、総務省が2020年9月11日に公開した標準仕様に準拠する住民情報システムの開発に着手し、その成果をオープンソースとして公開する取組みを始めます。

(中略)

今後各社からリリースされる住民記録システムがこの標準仕様書に準拠していることを客観的に検証する手段がありません。

さらに、この標準仕様書が文字どおりの「標準」であるならば、前提となる知見を持たない開発者でもこの仕様書で実装可能であることを検証できなければなりません。これは特定少数のシステム開発事業者による寡占を抑止するためにも必要な活動です。

したがって、標準仕様書を忠実に参照し実装する取組みは意義があるものと考えます。

 この時点で筆者が抱いていたのは、「標準化によって自治体がシステム開発や運用の主権を取り戻せるのではないか」という期待でした。

 同時に「標準仕様書によって本当にあらゆる事業者が市場に新規参入できるのか」という問題意識も持っていました。

 このプレスリリースの発表後、さまざまな方から筆者にご連絡をいただきました。励ましの言葉もあれば、批判の声もあり、既存の事業者の中には筆者の意図を探ろうとする動きも見受けられました。

 しかし残念ながら、政府が示した標準仕様書には肝心のデータ管理に関する仕様が欠落していたため、それが新規事業者の参入障壁となっていることが明らかになりました(とはいえ、筆者は今もなお諦めていません)。

 もちろん「定義されていないのであれば、各自が自由に作ればいいのでは」という声もあるかもしれません。しかし、このような状況下では、どの事業者も標準仕様にきちんと準拠したシステム開発を行うことは実質的に不可能です。いずれ必要な情報が公開されるだろうと期待していましたが、結局その情報は最後まで示されることはありませんでした。

 なお、政府は「なぜデータ管理に関する仕様が含まれていないのか」という問いに対し、「データ管理は事業者間の競争領域であるため、仕様として定義しない」と説明しています。

 しかし、自治体のシステムとは本質的に住民情報を履歴とともに適切に管理するデータベースシステムであり、データ管理の統一こそが重要であるという認識が欠落していたのではないでしょうか。この政府の説明には強い違和感を覚えざるを得ません。

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