2015年7月27日以前の記事
検索
連載

仕様書だけが降ってきた――「自治体システム標準化」で現場の混乱を招いた“完成図なき改革”(4/6 ページ)

「自治体システム標準化」と「ガバメントクラウド移行」を巡り、自治体の現場では人手不足、想定外のコスト増、移行遅延、責任の所在の不明確さ――といった深刻な混乱が広がっている。CIO補佐官として、現場で取り組みに関わってきた筆者が「マネジメントの視点」から事業について考える。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

「政府が払う」はずだったのでは? 繰り返し変更される説明

 さらに実態として、ガバメントクラウドへの移行を強制されているという事実も根深い問題です。前回の記事でも、ガバメントクラウドへの移行がコスト増につながっている点を指摘しました。

 本来、ガバメントクラウド利用料については「政府が全額を負担する」と説明されていたと記憶しています。しかし、実際にはガバメントクラウド利用料の支払いスキームについて政府の説明は何度も変更され、時には矛盾する説明も見られました。

 もし当初想定されていなかった自治体の費用負担を後から設け、それに合わせて説明を変えていたのだとすれば、不自然な経緯も納得がいきます。

 ガバメントクラウドに関する政府の説明では、「政府の責任で進める」「政府が整備する」「政府が全面的にサポートする」――といった強い言葉が用いられていました。

 この時点では、将来的な費用負担の詳細は明確に決まっていなかったのかもしれません。しかし、こうした表現からは「これは国家の恒久的なプロジェクトであり、費用も恒久的に政府が負担すべきだ」という自治体側の解釈が生まれても不思議ではありません。

 曖昧な言葉の裏を自治体側が読み取り、自ら備え続ける必要があるような状況は適切とは言えません。

 政府は標準化基本方針の中で「地方公共団体や基幹業務システムを提供する事業者の意見を丁寧に聴く」と記していますが、現実にはそうなっておらず、課題の整理や説明が十分でないまま、スケジュール優先で進めたことが、今もなお自治体との信頼関係を損ねる原因になっていることに気付くべきだと思います。

自治体が選べない構造が「コストと不信」を生んだ

 また、この支払いスキームの歪(いびつ)さは、システム提供事業者に対して費用削減のインセンティブが全く働かない要因にもなっています。

 自治体は事業者にシステム使用料を支払い、ガバメントクラウド利用料については政府からの請求に従って最終的にクラウド事業者へ支払う仕組みです。さらに、どのクラウド事業者が提供するガバメントクラウドを利用するかについても、実態としてはシステム提供事業者がほぼ決定権を持っているのが現状です。

 つまり、システム提供事業者は自らのリスクを回避するために過剰な性能のクラウドサービスを選択しても、自分の懐は傷まないのです。その結果、自治体は言われるがままのガバメントクラウド利用料を支払わなければならない構造になっています。

 もし自治体側に、より多くのHOWの選択肢が与えられていれば、その中から最適な方法を見いだす努力ができたはずです。ところが、実際には、自治体が選べるHOWの選択肢は潰され十分な裁量がなくシステムの品質に対する不安や移行期限への遅れ高止まりするコストといった課題をただ受け入れるしかない状況となっています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る