JCBはなぜ「最大10%」をシンプルにしたのか 条件だらけの還元競争に向き合った一手(3/3 ページ)
クレジットカードのポイント還元競争が複雑さを増す中、JCBは最大10%還元の新ポイント制度で「シンプル」を打ち出した。なぜ条件をそぎ落とす戦略を選んだのか。競合比較とネットの反応から、その狙いと限界を探る。
ネットの反応、そして落とし穴
J-POINT発表の翌日、Xはにぎやかだった。
「スタバカードへのチャージで10%還元」「マックもガストも10%」――数字のインパクトに驚く声が相次いだ。「JCBが本気を出した」という評もある。「タッチ決済に縛られないのがいい」「某社と違ってカード決済でも対象なのは助かる」。競合との比較で評価する声も目立った。
ただ、よく読むと注意書きがある。
スターバックスの10%還元は、店頭レジでカードを出しても適用されない。対象はオンライン入金、オートチャージ、eGift、モバイルオーダーに限られる。マクドナルドも同様で、カウンターで「JCBで」と伝えても10%にはならない。モバイルオーダーかデリバリー経由が条件だ。
つまり、JCBは「画面の向こう側」の消費に照準を合わせている。Amazon、App Store、Google Play、Hulu、U-NEXT、メルカリなど、対象70店舗以上のラインアップを見れば、その意図は明らかだ。石谷氏も「これだけのオンラインサービスやサブスクをそろえているところは、他にないのでは」と胸を張る。Oliveがコンビニ、エムットがスーパーなら、JCBはオンライン。すみ分けを狙った、というわけだ。
もっとも、死角がないわけではない。年会費無料で人気の「JCB CARD W」はボーナスポイントの対象外で、ネット上では「同じJCBなのに不公平では」という声もある。Amazonは1.5%、HuluやU-NEXTは一般カードだと1%。「最大10%」の看板ほど、還元率の中身は均一ではない。
結局のところ、「シンプル」を掲げても細かい条件は残る。ただ、他社と比べれば気にしなければいけない量は確実に減った。それを「十分」と見るか「まだ足りない」と見るか。判断は、財布を開く消費者に委ねられている。
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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