なぜ、クレカは“主役”になれなかったのか 銀行が先に広げた「組み込み金融」:エンベデッドファイナンスの誤算(5/5 ページ)
クレジットカードは本来、異業種と結び付く「組み込み金融」の先駆けだった。だが、なぜ銀行に主役の座を譲ったのか。システムの制約や業界構造をひも解きながら、CCaaSを起点に始まったクレカ業界の変化を追う。
「古くて新しい」提携カードの再定義
CCaaSの第1号案件となるviviON(東京都千代田区)は、同人誌通販サイト「とらのあな」などを運営し、二次元コンテンツを愛好するユーザー層に強い支持基盤を持つ。専用アプリ「viviONクレカ by Nudge」では、同社の会員IDとカードをひも付けることで、決済額に応じたポイントの倍付けや、特典画像を配布できる。アプリを通じたアンケート配信や、決済時のプッシュ通知をカスタマイズするなどして、キャンペーン告知に活用する。従来の提携カードでは難しかったファンとの継続的な接点づくりを狙う。
ナッジは、2026年までに3〜5社の稼働を見込む。ターゲットは数万〜10万枚規模のカード発行を想定する中堅企業だ。大手のように自社でイシュアになる体力はないが、顧客基盤を生かした金融事業には関心がある層に照準を合わせる。さらに、既存のカードシステムを刷新したい金融機関への提供も視野に入れているという。
「エンベデッドファイナンスが広がっていく、浸透していくのは来年以降だろう」と沖田氏は語る。銀行BaaSが先行した日本市場で、数十年の歴史を持つ提携カードの「再発明」が、ようやく動き出した。
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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