なぜ、クレカは“主役”になれなかったのか 銀行が先に広げた「組み込み金融」:エンベデッドファイナンスの誤算(4/5 ページ)
クレジットカードは本来、異業種と結び付く「組み込み金融」の先駆けだった。だが、なぜ銀行に主役の座を譲ったのか。システムの制約や業界構造をひも解きながら、CCaaSを起点に始まったクレカ業界の変化を追う。
海外勢との違いは「フルパッケージ」
海外では、クレカ発行のインフラを外部提供する「モダンカードイシュイング」と呼ばれるプレイヤーが急成長している。その代表格ともいえる米Marqeta(マルケタ)は、配車サービスのUberやフードデリバリーのDoorDash、米国で人気の決済アプリCash Appなどにカード発行基盤を提供する。
決済サービス大手のStripe(米国、アイルランド)が手掛けるStripe Issuingは、SaaSに組み込まれる形で普及が進む。いずれもAPIを通じて、数週間でカードプログラムを立ち上げられる点が、開発に年単位を要する従来のレガシーシステムとの決定的な違いだ。
ただし、これらは基本的に「ヘッドレス型」と呼ばれる提供形態を取る。カード発行や決済処理の機能はAPIで提供するが、ユーザーが実際に操作するスマホアプリや管理画面は、サービスを導入する企業側で開発しなければならない。カード情報を扱うためのセキュリティ基準「PCI-DSS」への準拠も自社で対応する必要があり、技術力のある企業でなければハードルが高い。
ナッジのCCaaSは、これとは異なる「フルパッケージ型」を標榜する。イシュアとしてのライセンスはナッジが保有し、本人確認(eKYC)や審査、不正検知、カスタマーサポートといった煩雑な運用業務も一括して担う。加えて、提携企業専用のスマートフォンアプリもセットで提供する。
提携企業は金融の専門知識やシステム開発力がなくても、顧客体験の設計とマーケティングに集中できる。
従来の提携カードとの違いは、顧客ID連携の深さにある。一般的な提携カードは機能が限定的で、大手航空会社や流通大手のようにシステム投資ができる事業者でなければ、自社の顧客IDとカード利用データをひも付けることは難しかった。
CCaaSでは、提携企業の既存会員IDとカード利用履歴をシームレスに連携でき、決済額に応じた独自ポイントの付与や、アプリを通じたアンケート配信といったCRM施策が標準機能として使える。初期投資は数千万円程度、準備期間は約半年。自社でイシュアになる場合と比べ、「はるかに低コストでクイックに立ち上げられる」という。
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