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「俺の」ブランドは再成長できるか ファンド主導で進む外食ビジネス再構築の実像

「俺の」ブランド再生と、事業の持続性をどう両立させていくのか。投資会社ネクスト・キャピタル・パートナーズ代表で、俺の会長を務める立石寿雄氏と、社長の桜井暁史氏に話を聞いた。

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 「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」などを展開する俺の(東京・中央)は、投資ファンド傘下で事業の再構築を進めている。

 2010年代前半に注目を集めた「俺の」ブランド。高級店で経験を積んだ料理人による料理を、比較的手頃な価格で提供するビジネスモデルは、価格と品質の関係に対する常識を覆した。しかし、高い認知度と集客力を持つ一方、成長局面で形成されたオペレーションや収益構造に課題を残していたのも事実だ。

 同社はこうした状況を踏まえ、焼肉業態などを展開。比較的安定した財務基盤を持つ外食企業「オリーブ」と合併させた。ブランドと財務の両面を補完するロールアップ型の成長戦略を描く。

 統合後は、「PMI」(ポスト・マージャー・インテグレーション:買収後の統合)を通じた仕入れや業務フローの標準化を進めるとともに、DXによって業務基盤を整備。現場がオペレーションに追われるのではなく、顧客対応や付加価値の創出に時間を使える体制づくりを進めてきた。

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2025年11月末には恵比寿にステーキ業態「俺のステーキ」を出店(店内の様子、以下クレジットのない写真はアイティメディア撮影)

 こうした取り組みを通じ、同社は2027年の株式上場も視野に入れている。再成長戦略の一環として、ステーキ業態「俺のステーキ」の展開も進めている。黒毛和牛を中心とした高付加価値メニューを特徴とし、2025年11月末には恵比寿に出店。今後は吉祥寺、秋葉原エリアへの展開も計画しており、2026年2月までに計5店舗体制へ拡大する。

 「俺の」ブランド再生と、事業の持続性をどう両立させていくのか。投資会社ネクスト・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)代表で、俺の会長を務める立石寿雄氏と、社長の桜井暁史氏に話を聞いた。

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立石寿雄(たていし・ひさお) ネクスト・キャピタル・パートナーズ(以下NCP)社長・俺の会長。元産業再生機構執行役員。機構においては、唯一の上場EXITとなった工作機械メーカーミヤノを担当した他、機構41案件のうち5件の案件を担当、早期に全案件の再生を実現。その後、2005年にNCPを設立。再生機構の前には、PwCFASマネージングダイレクターとして、東京三菱銀行と共同してフェニックスキャピタルを設立し、設立後は共同代表を務めた。PwCFASの前職の東京銀行(現三菱UFJ銀行)においては、リスク管理、不動産の証券化を担当。その後カリフォルニアのUnion Bankに出向、M&Aやアドバイザリー業務などに従事した。その際に、日本でのバルクセール第一号の買い手となったローンスターを発掘、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に紹介している。NCP以前に関わった主要再生案件には、私的整理ガイドライン第一号の市田、東証二部上場の滝澤鉄工所、フットワーク、幸福銀行などがある
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桜井暁史(さくらい・あきふみ) 俺の社長。2014年12月俺のに入社後、各店店長を歴任。以後、やきとり業態特任担当、マーケティング本部副本部長、営業本部和食・焼肉業態スーパーバイザー、執行役員営業本部営業第一部長、取締役営業本部営業第一部長を経て現職

財務とブランドを掛け合わせるロールアップ戦略 その真価は?

 「オリーブは財務体質が強いものの、ブランド力が弱い。一方で『俺の』はブランド力があるものの、財務面には課題がありました。両者の特性を組み合わせることで、より持続性のある事業モデルを描けると考えました」

 立石氏は、統合の狙いをこう説明する。飲食業界ではロールアップ型のM&Aが語られることが多い。だが、同社が目指したのは単純な規模拡大ではなく、財務とブランドという異なる経営資源を補完関係に置くことにあった。

 オリーブは、キャッシュリッチで安定した財務基盤を持つ。一方で、消費者の記憶に強く残る“確立されたブランド”を持っていなかった。対照的に「俺の」は、高い認知度と集客力を誇っていたものの、安定的に利益を積み上げてきたとは言い切れず、財務体質は盤石ではなかった。

 立石氏は、両社を統合することで、単独では実現しにくかった成長曲線を描けると判断。実際、オリーブの既存店を「俺の」の業態へと転換したことで、来店客数が増加した事例もあるという。属人的になりがちな飲食ビジネスを、資本とブランドの両面から再構成しようとする点は、外食業界の経営手法として注目される。

 もっとも、M&Aは買収が完了すれば終わりではない。統合後の経営を左右するのは、PMIだ。

標準化と裁量の間で生じたPMIの課題

 統合を進める過程で顕在化したのが、オペレーションのばらつきだった。同じブランド名を掲げていても、店舗ごとに仕入れ先やメニュー構成が異なり、チェーンとしては非効率な状態が残っていた。

 これは、かつての「俺の」は、各店舗の店長やシェフに裁量を与え、「チェーン店でありながら独立店の集合体」として運営してきた歴史がある。店舗前にシェフの顔写真を掲示し、「この店はこのシェフが料理の責任者」と打ち出していた時期もあった。各店舗の個性を尊重することで差別化を図ってきたのだ。その反面、規模のメリットを生かし切れない構造でもあった。

 統合後は、仕入れや業務フローの標準化を進める必要があったという。一方で、これまで培ってきた現場のやり方や価値観も尊重しながら調整を重ねる時期が続いた。そうした過程を経て、現在は共通の方向性を持つ体制が整いつつあるという。外食産業は人材の流動性が高い。PMIには一定の痛みが伴うものの、同社は「選択と集中」を進めることで、長期的に持続可能な運営体制を構築しようとしている。

DXの目的は効率化ではなく付加価値の創出

 人手不足が慢性化する外食産業において、同社が重視しているのは採用数の拡大ではなく、働き続けられる環境づくりだ。

 「まずは労務環境を整え、既存の従業員が自信を持って人を紹介できる状態を作る。その上で、必要な人材に来てもらうことが重要だと考えています」

 立石氏は、紹介制を中心とした採用方針と、労務環境の整備を優先していると話す。従業員が、紹介したくなる職場であるには、料理の質、教育体制の整備をし、ブランドの魅力を高めることで、「ここで学びたい」と考える人材が自然と集まる構造が必要だ。

 こうした環境整備を支える手段として位置付けているのがDXだ。予約管理、在庫管理、勤怠・シフト管理、労務管理といったバックヤード業務にはSaaSを導入し、業務の属人化を抑制した。

 桜井氏は、「店長や料理長が、バックヤードや管理業務に費やす時間を最小化し、顧客対応に時間を使える状態を作ることが重要です。今後は、ホスピタリティの質が競争力を左右する時代になると考えています」と話す。DXの狙いを、現場の集中力を高めるためと説明した。

 同社では、DXを単なるコスト削減策とは位置付けず、現場が顧客対応や価値創出に集中するための基盤と捉えている。

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シャトーブリアンステーキ(俺の提供)

収益性と顧客体験を両立する外食モデルへ

 「俺のブランドの価値は、おいしいものを、驚くほど高いコストパフォーマンスで提供し続けることにあります。この根幹を守りながら、品質を落とさずに事業の持続性を高めるための改善を続けていきたいと思っています」(桜井氏)

 「俺の」ブランドの特徴である「高品質な料理を、納得感のある価格で提供する」という方針は、現在も維持している。集中購買や原価管理の仕組みをグループ横断で活用することで、食材コストやオペレーションコストの改善を図り、価格や品質に反映させるという。また、焼肉業態で培った購買力を生かし、黒毛和牛を一頭買いするなど、他店より有利な条件で仕入れ、その価値を顧客に分かる形で還元する。

 これまで重視してきた回転率中心の運営から、顧客満足度を重視する方向への見直しも進めた。店舗によっては、2時間制の廃止を検討するなど、滞在体験の質を高める取り組みも始めている。

 立石氏と桜井氏は、「過ごす時間そのものの価値を高めるレストラン」という考え方を、全社的に共有していきたいと話す。

 日本の外食産業は参入障壁が比較的低く、競争が激しい。その一方で、味やサービスの水準が高まりやすい土壌も持つ。そうした環境下で、経営の合理性と現場の価値をどう両立させるか。「俺の」の再設計は、競争の激しい外食業界において、事業の持続性と現場価値の両立を模索する一つのケースといえそうだ。

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