「Bill One」は生成AIを使わない Sansanがあえて時流の逆を行く理由(2/4 ページ)
生成AI全盛の今、Sansanが手掛ける経理AXサービス「Bill One」はあえて生成AIを使わない選択をした。その理由を責任者に聞くと、経理業務ならではの「譲れない一線」が見えてきた。
なぜ生成AIを使わないのか
今回の新機能でBill Oneが採用したのは、ルールベースと機械学習を組み合わせたAIだ。生成AIは使っていない。笠場氏は「生成AIを全く使わないというスタンスではない」と前置きしつつ、その理由をこう説明する。
「経理業務では処理結果に一切の誤りが許されない。生成AIを使うと、企業独自ではない一般的な情報で科目を当ててしまう。インプットやアウトプットの入れ方によって結果が揺れ、なぜ間違ったかも特定できなくなる」
身近な例がある。ある家計簿アプリのAIは、30万円の支出を「ガソリン代」と判定したり、毎月同じ金額の引き落としに毎回違う科目を当てたりする。笠場氏は「一般常識的なものをAIに期待する気持ちはあるが、そこが欠けている実装は多い」と指摘する。
企業の経理でも同じことが起きる。生成AIは一般的な知識で科目を判断しがちだが、同じ商品名でも企業によって仕訳の切り方は異なる。さらに同じ入力でも、プロンプトの書き方次第で結果が揺れる。経理業務では「毎回同じ条件なら同じ結果」が必須だが、生成AIはその再現性に課題がある。
ブラックボックス化の問題もある。生成AIがなぜその科目を選んだのか、理由を説明できない。間違いが起きた際に原因を特定し、改善することが難しくなる。
そして精度が低いAIは使われなくなり、学習データも溜められない悪循環に陥る。笠場氏が冒頭で語った「一度間違ったら使いたくなくなる」という言葉は、この悪循環への警戒から来ている。
こうした理由から、Bill Oneは「決まったパターンはルールで判定」「過去データからの類推は機械学習」という組み合わせを選んだ。笠場氏によれば、経理業務の6〜7割はルールベースで対応でき、残り3割程度を機械学習でカバーする。生成AIの出番があるとすれば、過去に例のない新規の請求書に対して科目をサジェストするような「残り数%」の領域だという。
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