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「AIに選ばれるSaaS」が成否握る 「SaaS is Dead」論にfreeeが出した答えとは?(1/2 ページ)

「SaaS is Dead」――AIエージェントの台頭により、従来型のSaaSは不要になるのではないか。そんな議論がSaaS業界で広がっている。人間に代わってAIが業務を遂行する時代、ユーザーインタフェース(UI)を強みとしてきたSaaS企業の存在意義はどこにあるのか。freeeの横路隆CTOに聞く。

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 「SaaS is Dead」――AIエージェントの台頭により、従来型のSaaSは不要になるのではないか。そんな議論がSaaS業界で広がっている。人間に代わりAIが業務を遂行する時代、ユーザーインタフェース(UI)を強みとしてきたSaaS企業の存在意義はどこにあるのか。

 この問いに対し、日本を代表するSaaS企業であるfreeeの横路隆CTOはこう語る。「AIから使いやすいSaaSがfreeeだ」。人間ではなく、AIに選ばれるSaaSを目指す。この戦略の真意と、13年間の蓄積がAI時代にどう生きるのかを聞いた。


「SaaS is Dead」論にfreeeが出した答えは? 横路CTOに聞く(筆者撮影)

「SaaS is Dead」論にfreeeが出した答え

 「SaaS is Dead」論の発端は、米マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏の発言にある。従来のSaaSは「データベースにビジネスロジックを付加しただけ」であり、AIエージェントがそのロジックを代替すれば、SaaSの存在意義は薄れる。しかもAIエージェントが主要なインターフェースになれば、SaaS企業が磨き上げてきたUIの価値も失われかねない――。この見解は業界に波紋を広げた。

 こうした議論を受け、SaaSのAI活用には大きく2つの方向性が生まれている。

 一つは「AI-Powered SaaS」と呼ばれるアプローチである。既存のSaaSにAI機能を組み込み、サービスを強化する。ユーザーは従来通りSaaSの画面を操作するが、その裏側でAIが入力補助や自動処理を行う。SaaS企業にとっては既存の強みを生かしやすい。

 もう一つは「Headless SaaS」だ。こちらはAIエージェントがユーザーとの接点を担い、SaaSはバックエンドのデータ処理基盤に徹する。ユーザーはChatGPTのようなAIに話しかけるだけで、裏側のSaaSを意識することなく業務を完了できる。新興スタートアップが狙う領域でもある。

 では、freeeはどちらを選ぶのか。「両方やっている」と横路氏は答えた。


SaaSのAI活用には2つの方向性が生まれてきている(筆者がGeminiを使って作成)

ユーザー体験からAI体験へ――SaaS競争の新ルール

 freeeが「両方やる」と言う背景には、顧客層の違いがある。ITリテラシーの高いアーリーアダプター(早期採用者)は、各業務に特化したUIを持つSaaSを活用してきた。一方、紙とExcelで業務を回してきた中小企業――freeeが「メインストリーム層」と呼ぶ顧客――には、AIエージェントによる「丸投げ体験」が有効だ。

 従来のSaaSは、ユーザーが自ら画面を操作し、ルールに従って入力することを前提としていた。しかしメインストリーム層にとって、この「最初の一歩」こそが最大のハードルだった。横路氏は「AIエージェントの登場は、これまで誰も取れなかったメインストリームのスモールビジネスを取るチャンスだと捉えている」と語る。AIエージェントが間に入ることで、ユーザーは今までのやり方を変えずに、裏側でfreeeが自動処理してくれる世界が実現する。

 一方、すでにfreeeを使っている顧客向けには、AI-Powered SaaS側の取り組みを進めている。freeeは「AIデータ化β」というサービスを提供している。領収書や請求書の画像から、生成AIを活用したOCRでデータを読み取り、さらにLLM as a Judge(AIによる品質チェック)で精度を担保する。ユーザーは従来通りfreeeの画面を使いながら、裏側でAIの恩恵を受ける形だ。

 HeadlessとAI-Powered、両方を手がけるfreeeだが、その根底には一貫した考え方がある。

 「AIから使いやすいSaaSがfreeeだ、という意味。ユーザーがAIを自分で意図的に使いこなす必要はない」(横路氏)

「AIにとっての使いやすさ」が勝敗を分ける

 競争の軸が変わりつつある。これまでSaaS企業は「人間にとっての使いやすさ」を競ってきた。直感的なUI、少ないクリック数、美しいデザイン。しかしAIエージェントが業務を代行する時代には、「AIにとっての使いやすさ」が勝敗を分ける。

 ここでfreeeの13年間の蓄積が生きてくる。同社は創業以来、業務の「構造化ルール」と「自動化エンジン」を磨いてきた。例えば、ある取引が発生したら自動的に仕訳が切られる、請求書の情報から支払い予定が生成される、といった具合だ。

 「われわれが信じてやってきた構造化ルールや自動化エンジンは、AIから利用するためのツールとしてかなり強みになる」と横路氏は言う。

 AIエージェントが全てを推論で処理しようとすると、コストがかかり、ミスも生じやすい。しかし構造化されたルールが既にSaaS側にあれば、AIはそのAPIを呼び出すだけでいい。AIが処理すべき情報量を減らせるし、正確な業務遂行が可能になる。

 言い換えれば、AIがデータに直接アクセスして処理するより、freeeのビジネスロジックを経由した方が安くて確実なのだ。これが「AIから選ばれるSaaS」の実態である。

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