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機能から「データ勝負」へ Sansanが舵を切る「SaaS is Dead」時代の新・生存戦略とは?SaaS業界の転換点(1/2 ページ)

生成AIの台頭で、インターネット上でサービスを提供するSaaSの収益モデルが脅かされ、「SaaS is Dead」(SaaSの終焉)といった言葉も広がる。こうした状況の中、SansanはSaaS企業としての従来の戦い方を大きく変える。業界が岐路に立つ中、Sansanが打ち出した生存戦略とは――。

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 6.4億円――。日本企業がデータ整備に投じる平均投資額だ(Sansan調べ)。それでもなお、約8割の企業が取引先情報の重複や更新漏れに悩まされている。

 Sansanが11月21日に発表した新AIソリューションは、この課題を突く戦略転換を示した。自社製AIではなく、Microsoftの「Copilot」や米Anthropicの「Claude」など既存の生成AIツールとの連携を前面に打ち出し、創業から18年間で蓄積したビジネスデータの質で勝負する。UIや機能ではなく、AI時代に向けて、データレイヤーでの競争優位を築く選択だ。

 生成AIの台頭で、インターネット上でサービスを提供するSaaSの収益モデルが脅かされ、「SaaS is Dead」(SaaSの終焉)といった言葉も広がる。

 こうした状況の中、SansanはSaaS企業としての従来の戦い方を大きく変える。業界が岐路に立つ中、Sansanが打ち出した生存戦略とは――。


業界が岐路に立つ中、Sansanが打ち出した生存戦略とは――。写真は(左から)寺田親弘CEO、小川泰正執行役員(筆者撮影)

AIではなく“データ基盤”を売る Sansanが示した3つの解決策

 Sansanが今回発表したのは3つのソリューションだ。

「Sansan AIエージェント」は、同社のビジネスデータベースに加え、SFA(営業支援システム)や基幹システムなど社内の各種データを統合し、AIとの対話形式で活用できるようにする。営業担当者が「A社との商談に向けて過去の接点を教えて」と問いかけると、散在するデータから関連情報を抽出し、戦略立案を支援する仕組みだ。

 「Sansan MCPサーバー」は、既存の生成AIツールとSansanを接続する標準規格に対応したもので、11月10日からトライアル提供を開始した。ユーザーは普段使っているCopilotやClaude上で、Sansanに蓄積された名刺情報や企業データを直接検索・分析できる。

 3つ目の「Sansan Data Intelligence」は、同社が18年間で培ったデータ化・名寄せ技術を活用し、企業内の取引先データの重複や更新漏れを補正するサービスだ。800万件超の企業・事業所データベースをもとに、社内システム上のデータ品質を高める。

 いずれも共通するのは、AIそのものを提供するのではなく、質の高いビジネスデータを既存のAIツールで活用できるようにする「データ基盤」としての位置付けだ。

囲い込みから連携へ データで勝負

 MCPサーバーの提供が、この戦略の核心だ。従来のSaaSビジネスなら、自社製のチャットUIで既存のSaaSを強化するのが定石だった。しかしSansanは逆の道を選んだ。CopilotやClaude、ChatGPT、Geminiといった主要な生成AIツール全てと接続できる仕組みを提供する。ユーザーは普段使っているAIツール上で、Sansanのデータにアクセスできる。

 「一般的な生成AIは公開情報と入力されたテキストをもとに回答を生成するため、個社の事情や関係性を踏まえた分析や提案には限界がある」。寺田親弘CEOはこう指摘し、データこそが差別化要因だと位置付ける。

 勝負の土台は、Sansanを利用することで蓄積されたデータだ。名刺交換やメールのやりとり、商談記録など、取引先との接点情報が日々の業務を通じて自然に蓄積される。100万件以上の企業データベースには、資本金や事業内容、最新動向までが網羅されている。Sansan Data Intelligenceが搭載する800万件超の企業・事業所データベースも、官公庁の公開情報やWebサイトを独自に収集・名寄せして構築した資産だ。

 データの質と規模は、短期間では再現できない。生成AIがコモディティ化する中で、Sansanは「どのAIを使うかではなくどのデータを使うか」で差をつける。従来のSaaSが機能やUIで競った構図とは明らかに異なる戦い方だ。

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