「即レスが正義」──日本企業にはびこる無言の圧力 「つながらない権利」の実現は可能なのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
「つながらない権利」が、2026年の労働基準法改正の焦点の一つになりそうです。デジタルの発達によってなし崩し的に「24時間営業」や「ワンオペ」を強いられてきた日本の労働市場に、決定的な風穴を開けることになるのでしょうか。
「テレプレッシャー」がもたらす悪影響
実際、欧州諸国ではフランスの成功を皮切りに、より実効性の高い法整備が加速しています。イタリアやスペインでは、テレワークが普及する中で「休息時間の確保」と「デジタル切断」を法律で明文化しました。さらにポルトガルでは一歩踏み込み、緊急時を除き、勤務時間外に従業員へ連絡を取ること自体を雇用主に禁じ、違反した企業には罰金を科すという厳格な規制を導入しています。
また、民間企業の動きも日本の一歩先を行っています。ドイツのフォルクスワーゲンやダイムラー(現メルセデス・ベンツ・グループ)などは、休暇中の社員へのメールをサーバーが自動的に削除、あるいは受信拒否するシステムを導入しました。「休みは完全に切断(オフ)するもの」というルールを、個人の努力ではなくテクノロジーによって強制的に保障しているのです。
さらに米国でも、ニューヨーク市が勤務時間外の連絡制限を条例化する動きを見せるなど、この潮流はもはや「世界標準」のインフラとなりつつあります。
そもそも「つながらない権利」は情報があふれる現代社会では、極めて重要な視点です。
休日も心が仕事から解放されない緊張状態は「テレプレッシャー」(telepressure)と呼ばれ、「部下は上司に即レスすべし」「従業員は顧客に即レスすべし」「深夜や休日にレスしない社員=ダメな社員」といった暗黙のルールが存在する企業に勤める人ほど、テレプレッシャーは高まります。
米ノーザンイリノイ大学のラリサ・K・バーバー博士らの調査では、強いテレプレッシャーを感じている労働者の睡眠の質は低く、「仕事に行こうという気にならない」「自分は電池切れのように感じる」「集中できない」といった傾向が強くなることが分かりました。米バージニア工科大の研究チームの調査では、父親が高いテレプレッシャーを感じていると、家族の幸福感が低下することが明らかになりました。
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