赤字経営から年商2000万円へ 「原価って何?」から始まった革職人の“納得される値上げ”(3/4 ページ)
赤字経営に苦しんだ、沖縄の小さな革工房は「値上げ」によって年商2000万円を実現した。客離れも懸念されたが、どのように乗り越えたのか?
「怖さ」を取り除いた「沖縄県よろず支援拠点」の助言
状況が変わるきっかけは、開業から2〜3年後、中小企業庁が設置する経営相談所「沖縄県よろず支援拠点」に足を運んだことだ。借り入れをしていた地銀の担当者が紹介してくれた。
製造・物販を専門とする相談員に面談してもらうと、改めて適正な原価算出による販売価格の改定が必要との指摘を受ける。試しに、然るべき手順で原価率をはじき出してみた。
革は「10センチ×10センチ」の正方形が「1デシ」という単位で取引され、1デシ当たりの仕入れ価格が種類ごとに決まっている。そこに金具、ファスナーなどの副資材を足し、材料費が算出される。そこから製作工程を細分化して各工程にかかる時間を測り、時給換算で工賃に落とし込む。ミシンなど必要設備の減価償却費、家賃や光熱費といった間接費、デザイン料なども加味すると、販売価格を安く見積もっていた事実が改めて可視化された。
相談員には「原価率は35%ほどに抑えるのが理想です」と言われたが、この時は優に50%を超えていたという。
サイズ感は小さくても、原価が高くなる傾向にある商品も分かった。スマートフォンケースはその一例だ。カメラレンズ部分の位置調整や穴あけ、手縫い作業など工程が多く、さらに新機種が発表されるたびに新しいパターンを作る必要がある。それまで5000円ほどで販売していたが、価格は1万7000円程度が妥当と算出された。
「そもそも原価が何を意味するのかも分かっていませんでした。専門用語をかみ砕きながら細かく説明してくれたので、とても助かりました」と振り返る山城さん。ただ、大幅な値上げを実行するのは簡単ではない。特に、それまで経営を下支えていたオーダーメイド商品の受注については「高い値段を伝えて、お客さんが離れていくのが一番怖かったんです」と不安を拭いきれなかった。
それでも、相談員から「もしオーダーメイド商品の注文が減っても、その分の空いた時間で定番商品をもっと作ればいいのではないか」という提案を受け、吹っ切れたという。
確かに、より効率的に製造できる定番商品のバリエーションと量を増やし、店舗に並ぶラインアップを充実させられれば、ブランド力の底上げや売り上げの安定化につながる可能性はある。全体の価格設定の引き上げを決断し、収益と働き方の改善を目指した。
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